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故郷の味

坂部智子

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テーマ:エピソード集

本日訪問のAさん(82歳女性、要支援1、独居)
昨年夏にご主人を亡くされて、一人暮らしになった。
腰痛があり、上を向くとめまいがするAさんに変わって、
洗濯干しから、家事もいろいろこなしてくれていたご主人だったので、
一人になって、ホントに心細い・・・とおっしゃる。

今は、夏の一回忌に向けて、なんとか気が張っているけれど、
それを無事に終えたら、自分もすぐあっちへいくんちゃうか・・・と言う。
気が晴れないし、何をするのもおっくう・・・とのこと。
歩行器と室内用4点杖をレンタルされているので、点検に伺ったのだが、
うす暗い部屋で、ぽそぽそ・・・としゃべりはる。

すぐ近所に、同郷の人が居て、時々のぞいてくれて、買い物も頼む・・・との話から
「おくにはどちらですか~?」と聞くと、そこからちょっと話が弾みだした。
「昔は、よぉ作った“故郷(徳之島)のてんぷら”」・・・というのが、
サーターアンダギーのようで、近所の鹿児島の店で、時々買ってきてもらうそう。
昔はよぉ作った・・・と、何度もおっしゃるので、どうやって作るのか尋ねてみた。
え~っと、粉は一袋(1kg)に、黒糖(白砂糖でもよい)は半分(500g)
玉子7,8個入れて、あれはなんやったかな、ソーダ言うんかな?
ほれあの、ふくらすのに・・・「あっ、ふくらし粉ですか?」「そうそれ・・・」
私がノートにメモるのを見て、ササッと立ち上がって、電気をつけてくれはった。
(さっきまで暗~い部屋で、動くのがおっくうで・・・とへたりこんでいたAさんですが・・・)
「・・・ぬるめの油で・・・勝手に浮き上がってまる~なる・・・」
身振り手振りで、一生懸命伝えて下さった。
私がとろいので、何度も繰り返して、ていねいに(笑)。

訪ねた時とは全くちがう笑顔で、「ほな、がんばって」と、送り出してくださった。

作ってみよう。
上手にできたら、Aさんに食べてもらお。

行く先々で、いろんなことを教わっている。

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