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木造住宅は地震に弱いのか?

浅井知彦

浅井知彦

テーマ:地震に強い/耐久性に優れた家

元々地震の多い日本ですが、近年、生命を脅かす大地震が頻繁に起きています。

大きな地震のたびに映像で見るのが倒壊した住宅。その多くは木造の建物です。

そもそも日本の住宅の6割程度が木造ですので、どうしても木造住宅の被害が目立つのですが、

そもそも木造住宅は地震に弱いのでしょうか?


残念ながら・・・昔の木造住宅は地震に弱い構造です

写真は、典型的な昔の民家です。

古い木造住宅
構造は木造軸組。

重い瓦は、風に対して屋根が吹き飛ばされるのを防ぎ、上から柱を押さえることで家を安定させる効果も期待しています。

家全体は柱と梁で構成されて間取りも自由。通気性も良く、増改築や解体修理も容易です。

床下は束を建てて通気性を確保し、床下部分が腐るのを防ぎます。

日本の気候風土を考えると、それなりに合理的な構造であると言えます。

ただ、この構造ではどうしても地震に対して弱くなります。

昔の木造は構造壁が無い
このような昔の木造住宅は柱と梁だけで構成されており構造的な壁がありません。
これでは地震の水平力に対応できません。

重い瓦は地震時に不利
重い瓦は地震時に大きな水平力を生じさせ、家を不安定にします。

頑丈な基礎が無い
連続的な基礎が無く、かつ基礎と土台、柱が緊結されていないので、地震時に建物構造全体が不安定になります。

地震時の映像で、木造住宅が左右に大きく揺れているのを見た人も多いでしょう。

「構造壁が無い」「屋根部分が重い」「基礎がしっかりしていない」という「昔ながらの日本の家」の多くは、残念ながら大きな地震には耐えられません。


耐震基準の変遷

従来の木造住宅が地震に弱いことは昔から知られていました。

日本は地震の多い国です。過去に何度も大きな地震が起きています。

建設省、国土交通省は震災被害が起きるたび、その内容を分析し、住宅に対する設計基準を改定してきました。

近年の大きな基準の改定としては、

1981年(昭和56年)新耐震基準
木造住宅においても構造壁を積極的に採用するように基準が改定された

2000年(平成12年)
木造住宅の壁の配置、金物による構造部材の固定。
地盤、基礎の重視。

・・・などがあります。

その他にも耐震等級の採用や建築部材の改良などもあり、木造住宅の安全性は昔に比べると飛躍的に高くなっています。

木造住宅構造計算
その結果、基本的に現在の基準で設計されている木造住宅は、地震に対してかなり安全になっていると考えられます。


最新の基準で建てられた木造住宅


最新の基準で設計されている木造住宅とはどんなものでしょうか。

まず壁、柱部分について、その多くは筋交いや金具、耐震壁などで固定されています。

木造の金具
また柱の間には断熱性アップのために断熱材を入れています。

断熱材と筋交い
木造住宅というと「壁があって、柱があって・・・」というイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、今の木造住宅では耐震性、断熱性、遮音性を確保するために柱をすべて壁で覆い隠すことがほとんどです。

内装を仕上げてしまうと、家の構造が軽量鉄骨なのか木造なのか、普通の人には区別がつかないと思います。

木造らしさは失われてしまったが性能は大きく向上した・・・今の木造住宅はそんな感じでしょうか。


今の木造住宅は頑丈で高性能な筈・・・しかし抜け道がある

先程述べたように、現在の設計指針に則って設計、施工を行っていれば、今の木造住宅はすべて大きな地震にも耐えられる構造になっている筈です。

しかし、残念なことにこの法律は完全では無く、木造住宅に限って「抜け道」があります。

それは建築基準法の「4号特例」というものです。

「4号特例」とは、ざっくりいうと、

木造住宅は大規模なものを除き構造審査を省略出来る

というものです。

この場合の「大規模な住宅」とは「2階建て以下」「延べ床面積500㎡以下」「高さ13m、軒高9m以下」ですので、殆ど住宅はこれに当てはまってしまいます。


もちろん構造審査が要らないからといって、安全基準を守らない、危険な家を建てて良い訳ではありません。

普通の業者であれば、構造安全性に十分配慮した家を設計し、建てていると思います。

しかし、今も安全性の低い家が建てられることが全く無いのかというと・・・残念ながらなんとも言えません。

実際、2006年には大手の木造住宅メーカーで大量の耐震強度不足が見つかっています。

木造住宅は内部の施工が終わってしまえば、耐震壁がちゃんと施工されているのかどうか判らなくなります。

きちんとした耐震設計基準が定められているのだから安全性の低い家は建てられない筈・・・と思いたいのですが、こればっかりは判りません。


・・・最近、流石にこれはまずいということで、近いうちにこの「4号特例」は廃止されることになりそうです。

ただ、それまではこの特例で「構造審査のない木造住宅」が建てられていきますので、注意が必要です。


もうひとつの弱点。木造は水とシロアリに弱い

もうひとつの木上住宅の弱点は水とシロアリに弱いことです。

どちらも昔からよく知られていることですし、何を今更・・・と思うかもしれません。

しかし先程も述べましたが、今の木造住宅は昔の家と違い「柱などの構造材が壁の中にあって見えない」という作りになっています。

実際、私もお風呂のリフォームで床を剥がしてみたら、少し水漏れがあったようで根太がすっかり腐っていたということがありました。

こういう劣化は外から判りません。

木造の劣化
もちろん鉄も錆びますし、コンクリートもまったく劣化しない訳ではありません。

鉄骨造や鉄筋コンクリート造なら何十年経っても絶対安全とは言えないかもしれません。

しかし、これらの構造と木造では劣化の度合いとその影響は段違いです。

今の木造の構造、柱を見せなず壁を塞いでしまう工法は、ますます木の劣化を見せなくしています。

基礎も昔の束基礎ほど床下に空気を通しません。

完成時には充分な耐震性のある家も、柱や土台が欠損していたら充分な性能を発揮できません。

耐震性の維持するためにも、年数の経った木造住宅は構造の健全性をチェックしておいてください。


【結論】木造すべてが地震に弱いとは言わないが抜け道の多い構造なので注意が必要


今回のコラム「木造住宅は地震に弱いのか」。

纏めると以下のようになるでしょうか。

古い家は地震に弱い。特に2000年以前のもの。

最新の住宅は【ちゃんとした設計施工を行われていれば】まず大丈夫

最新の住宅も継続的に劣化チェックは行うべき

古い家、特に1981年(昭和56年)新耐震基準以前の住宅にお住まいの方は、不安があれば自治体の耐震診断サービスを利用するのが良いでしょう。

またこれから家を建てる人は、ちゃんと構造計算が出来ているか、構造計画のとおりに耐震壁が入っているかをチェックしてください。

そして何より大事なのは、信頼できる設計施工会社を選ぶことなのではないでしょうか。

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浅井知彦
専門家

浅井知彦(一級建築士)

レヴォントリ株式会社 一級建築士事務所

素材メーカーで研究してきた技術者としての経験を生かし、鉄筋コンクリート造の住宅を提案。快適な住空間に仕上げるため、デザインありきではなく機能性重視の家づくりを行っています。

浅井知彦プロは神戸新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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