薬学部のすゝめ①
ここ10年程で、私立薬学部のレベル低下が激しいのをご存知でしょうか。入試の偏差値がどんどん下がっています。私の薬局・理数塾のある神戸での一例を紹介します。神戸市中央区のポートアイランドにある神戸学院大学の薬学部は、かつては神戸市西区にあり些か交通の便の悪い大学でした。しかし現在では三宮からポートライナー一本で通学できる立派なキャンパスに移転しており学生人気が高そうに思えますが、入学偏差値は劇下がりしており令和6年度入試の段階では35です。この35という数字は、立地的にも歴史的にも神戸学院よりも劣る同じ兵庫県の兵庫医科大学(旧兵庫医療大学)よりも低く、姫路獨協大学と比べても同レベルかやや下と見て取れます。
嘗ての神戸学院大学薬学部は今よりもずっとハードルが高く、同じ神戸学院大学内では、薬学部>>その他の学部 という位置づけで神戸学院の花形学部でした。ところが現状は、その他学部>>薬学部 という位置づけになります。
他の私立大学薬学部でも程度の差はあれ、長期下落トレンドは見られます。
この事は見方によっては、入学しやすくなって受験生には良いかもしれませんが、そんな簡単な状況ではありません。当然ですが、「入学者のレベル」x「大学の教育レベル」で卒業生のレベルが決まります。また「入学者のレベル」と「大学の教育レベル」は独立した変数ではなく、相互に絡み合っています。優秀な学生に合わせると教育レベルは高くなりますし、大学入学後にリメディアル教育という高校までの範囲のおさらいに力を入れないといけない学生が多くなると、大学の教育レベルが高くなる事はありません。鶏が先か卵が先かと同じですが、少なくとも鶏と卵の両方の質の低下があれば、総合的な質もどんどん下がっていくでしょう。この負のスパイラルに陥ると結果として学生のレベルが低下します。
学生のレベルが低下すると、どうなるかを以下に書きます。
①国家試験に合格できない。最終的に薬剤師免許が取れない。
②実際の臨床現場である実習や就職先の病院・薬局でトラブルが頻発する。
ここからは私見になりますが、まず学力と臨床能力は関係ないというのは一定のコンセンサスがあります。例えば医学部CBTは薬学部と違い、同じ合格でも点数化されます。偏差値に似た基準のIRTという指標が使われます。そしてCBTの結果と国家試験の結果は相関するが、CBTの結果と臨床実習の評価には相関が無いと言われています。CBTの結果ですら臨床と相関がないのですから、入試の偏差値とも相関しないと思われます。
ただ、これは入学偏差値がそもそも65前後以上の学生が、4年間勉強した医学部のケースの実例です。私立医学部の一番簡単な大学の偏差値は60であり、一番難しい大学で72.5と12.5の開きがありますが、薬学部の偏差値の幅(35未満~62.5)に比べる小さいので、色々な傾向が医学部には当てはめやすいが、薬学部には当てはめにくい可能性があります。
臨床能力と入試時の成績(地頭)とCBTまでの勉強(努力)がどの程度臨床能力に影響するかを考えるにあたって、医学部では相関が少ないから、薬学部も同じように相関が無いと考えるのは早計です。
まず、薬学部は医学部よりも数字を使います。薬剤学や物理化学など医学部よりも計算能力が求められます。そして上記のように元々の学力の幅が広すぎます。薬学部にはボーダーフリーの大学もあります。
話をタイトルに戻しますが、「入りやすくなった薬学部に入って苦労する事」として、
1)偏差値50を超えるような学生がボーダーフリーの大学に入ると、周囲とのレベルの違いにモチベーションが下がり、成績が悪くなる。場合によっては留年に繋がる事もある。
2)ミスマッチで入学した学生にとっては、学力の違い以上に一般常識の違いに違和感を感じる。
・実習に遅れる。
・授業中に騒ぐ、飲食する。
・会話ができない。
受験が差し迫ったこの時期に、受験生の方には特にミスマッチによる入学後の苦労がある事を知っておいていただきたいと思います。



