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コラム

消毒用アルコールが無いなら赤ワインから合法的に作ってみる。

2020年3月6日 公開 / 2020年4月23日更新

テーマ:実験

コラムカテゴリ:医療・病院

消毒用アルコールとはエタノール76.9~81.4vol%含有のエタノール水溶液の事です。
アルコールとは言っても通常のワインや焼酎・日本酒などよりもずっと度数の高い液体になります。今回、消毒用のアルコールを確保するためにアルコール飲料から濃いアルコールを作る方法を検討したいと思います。
(%とか度数とかモル分率とか色々な用語が出来てきますが、%と度数は同じでアルコールの場合に全量(体積)に対するアルコールの(体積)です。)

スピリタスとかいうアルコール度数96度のポーランドのウォッカもあるようですが、どうもコロナウィルスの影響で品薄状態との報道がありました。
アルコールは水よりも沸点が低いので蒸留すればアルコールを取り出せるのではないかと考えました。蒸留とは液体を加熱して気体にして、再度冷まして液体にする操作です。
“(エタノール+水)の混合溶液を加熱して、まず沸点の低いエタノールだけを気体にして、それを元の容器とは別の所に持って来て冷やすと純度100%のエタノールが取り出せるのではないか?”

蒸留装置
動画はこちら→ 蒸留動画

実はこれには大きな問題が2つあります。
まず1つ目、そもそも消毒であってもアルコールを自分で作って良いのか?(問題1)
→ ○ or × の二択で即答を求められれば × になると思います。

そして2つ目、そんな簡単にエタノールを100%に濃縮できるのか?(問題2)
   → できません。

この2つの問題解決を模索しながら、自家製消毒用アルコールを作る方法を検討しました。

(問題1)について、どういう問題があるかというと、主に2つの法律でアルコールの製造は規制されています。1つには酒税法(主にアルコール飲料に関する法律)、もう1つにアルコール事業法。
まず、酒税法は1度以上の飲料用アルコールが対象になる法律で、飲むときに水割りするなどの例外を除き製造するための免許が必要になります。勝手にビールとか日本酒などは造れません。
国税庁や税務署の担当者に聞くと、「飲料を製造する気はない」と言っても飲める物は対象になるらしいです。そして蒸留などは作業自体がアルコール製造にあたるとの見解でした。では高校の化学の実験でアルコール飲料を使って蒸留の実験するのは問題ないのか尋ねました。「あれは工業用のアルコールを使っているので酒税法には当たりませんと考えています」との返答でしたが、実際には安い赤ワインなんかを使ってますから、厳密に言うと酒税法違反の実験になります。合法にするには試験用の承認を得る必要があるとの事でしたが、高校の理科の授業で毎回そんな事しているとは思えません。
しかしながら法律を尊重するなら、この高校の理科実験でやっている方法をそのまま使うわけにはいかなくなりました。

一方、アルコール事業法、こちらは主に工業用などのアルコールで90度以上の物に適用されます。管轄も経済産業省です。もし蒸留して最終的に或いは途中で90度以上のアルコールが出来る場合には、この法律が適用されます。適用されるという事は製造するための許可をとらないといけませんが、これについては専門業者でもない限りハードルが高すぎます。
最終的な消毒用エタノールは90度を超えなくても良いので、超えないような作り方をすれば問題ないのですが、途中で95度とかのエタノール溶液が出来てしまうとアウトです。従って無水エタノールのような濃度の高いエタノールは引っ掛かります。
上記の高校の理科実験(アルコール飲料を蒸留する方法)がこちらのアルコール事業法の対象になるかどうかについては、実は(問題2)を検討する事で答えが出てきました。
経産省のアルコール室の担当者が親切にも単式蒸留で止めるのはどうですかと教えてくれました。

(問題2)
高校の化学では習わないようですが、大学では共沸混合物というのを習ったのを覚えています。エタノールと水は任意に混和しますが、加熱していった場合に純粋なエタノールの沸点78℃でエタノールが全て蒸発し、水は100℃になるまで液体のままというふうにはなりません。通常の蒸留を何回繰り返しても96%までしかエタノールは濃縮できません。なぜかと言うと96%エタノール水溶液では液体の時と気体の時でその組成が同じ割合になり、せっかく気体にしても冷やせば元と同じ96%になってしまいます。共沸混合物になります。
では通常の20度や25度のお酒を1回蒸留した場合、何%になるのかを検討しました。
例えば25度の焼酎は体積の%で25%ですが通常の重量%では20.45%になり、これから分子の数の比であるモル分率に直すと0.09になります。大雑把に0.1とします。(水分子9に対してエタノール分子が1という事になります。)
写真の赤ワインの度数を14度とすると、11.32%(重量)、モル分率は0.048で約0.05と考えます。(エタノール分子1個に対して水分子19個になります。)
グラフの横軸0.05を真っ直ぐ上に上がると90℃ぐらいで曲線にぶつかり、そこを水平に右に行くともう一つの曲線にぶつかります。さらにその交点を垂直に下に降りた所、ここが一回蒸留した液体のアルコール濃度です、0.353(モル分率)になります。




(出典:慶應義塾大学学術情報リポジトリ アルコール蒸留の実験条件 に矢印と○を書き加えています。)

この赤丸のモル分率0.353は重量%で58.2%、約66度になります。
消毒用エタノールは約80%でモル分率で言うと0.52です。
1回の蒸留でできた約66度(赤丸)を85℃で加熱し蒸気にする(赤矢印)、その後冷却(紫矢印)でモル分率約0.5のエタノールが出来上がります。
これはちょうど消毒用エタノールと同じ濃さのエタノールになります。
さらに連続して蒸留すると、どんどん度数が上がっていきます。
(問題2)については、蒸留を繰り返す事で消毒用に必要な濃度まで濃くすることができます。
上の図から考えると2回の蒸留では90度を超える事がありませんので、ここで蒸留を止めれば(問題1)の90度の壁を超える事がないので、(問題1)の経産省管轄の部分はクリアできます。

あとは(問題1)の酒税法の部分です、何せアルコール度数1度から規制がかかるので、原料に酒税法の対象である焼酎やワインを使うのは難しいというのが国税庁(そこから回された税務署の担当者)のお話でした。そこで、一つ提案してみました。エタノール消毒液でも「IP」と付いた物は価格が安いんです。これはイソプロパノールという見方によってはエタノールよりも高級なアルコールを添加している事で酒税が掛らず安くなっています。であれば、次の工程で蒸留するのは問題ないかと聞いてみました。
まず、焼酎に少量のイソプロパノールを加える。(この時点で飲料ではなくなります。)次に(焼酎withイソプロパノール)を数回蒸留すると、エタノール濃度十分の(エタノール+イソプロパノール+水)の混合溶液が出来上がります。イソプロパノールも消毒として使用されますので、自家用として使用する分には問題ないと思われます。
学校で理科実験としてお酒の蒸留をする場合でも先にイソプロパノールなど飲料ではなくなるような物質を加えたら問題ないと税務署の方のお墨付きも頂きました。

薄めたアルコールや蒸留して濃縮したアルコールの濃度の簡単な確かめ方
 動画はこちら→アルコール濃度の確認

結論
アルコール消毒は蒸留する事で技術的にも法律的にも自家使用分は作る事は可能です。
だから買い占めないで、なくても焦らないで、街の科学者に相談して下さい。
注意点として
①原料のワインにイソプロパノールを少量加える。
②90度を超えないように、蒸留の回数を制限する。

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