100点のはずなのに
10年以上前、ある歯科医院から水槽設置のご依頼がありました。
こぢんまりとした医院で、先生も古参のスタッフさんも患者さんも、昭和からずっと続いてきたような場所。でも、小綺麗で佇まいはとても良い医院でした。
昼間に伺えば、待合室にはAMラジオが流れていました。
ご年配の患者さんがいて、子供の頃からそこに通っていたというお母さんが、今度は自分の子供を診せに来ている。
そんな歯科医院でした。
休診日に水槽を設置したとき、出来上がった水槽を見て、先生と奥さんがすごく嬉しそうにしていました。
それを見た私も嬉しくて、ここでこの水槽を頑張って綺麗にしていこうと思ったことを、今でも覚えています。
水槽は、ちょうど待合室の患者さんが座る視線の先に置かれていました。
先生は腕が良いと評判で、医院はいつも混み合っていました。
なるべく忙しい時間帯を避けてメンテナンスに伺い、患者さんたちと「ああでもない、こうでもない」と他愛のない話をしながら作業をしていました。
それでも待合室がいっぱいになってくると、メンテナンスをしている私が邪魔になるので、途中から早朝のメンテナンスに切り替えました。
色々とありましたが、それから10年以上。
水槽を設置した当初、私の子供は生まれたばかりでした。
その子が中学生になっていました。
ある日、先生から、腰を痛めて診療を続けられなくなったと聞きました。
以前から朝にお会いすると、先生は「腰が痛い」とずっとおっしゃっていて、私も「あれが良い」「これが良い」などと話をしていました。
いよいよ悪くなってきたんだな、と思いました。
年が明けたら、3月いっぱいで閉院するとのことでした。
けれど、先生は予定していた3月まで診療を続けることができませんでした。
年末に入院され、診療再開の見通しも立たなくなったため、年内に水槽を撤去することになりました。
そして、水槽を撤去しました。
院内は、水槽を置く前の空間に戻りました。
そのとき、最初に水槽設置のご依頼で、奥さんから電話をいただいたときのことを思い出しました。
奥さんは、院内をさりげなく飾りつけるのが上手な方でした。
きっと水槽も、先生や待っている患者さんを思う、奥さんの気持ちだったのかな。
そう思いました。
あのとき水槽を置きたいと思った奥さんの気持ちに、私はどれだけ寄り添えていたのだろう。
私にとって、設置したときから撤去する日まで、最初から最後までたどり着けた、初めての水槽になりました。


