工学鑑定を依頼して過失割合を争った交通事故被害者の訴訟(後遺障害別表第1第2級1号)
高次脳機能障害の認定基準
以前、ここのコラムで、高次脳機能障害について書いたことがあります。
高次脳機能障害とは、脳の損傷により、知覚、記憶、言語、学習、思考、判断などの認知機能に生じる障害のことをいいます。
交通事故で高次脳機能障害になったかどうかについては、通常、自賠責保険の後遺障害認定で要求されることが多い、次の3つの基準を満たすことが求められます。
1 頭部画像上の脳の外傷所見
2 受傷直後の意識障害
3 認知障害を疑わせる一定の症状や傾向
基準を満たさなければ被害はない?
この基準のうち、1や2の基準を満たさない程度の頭部外傷があった場合のことを、軽症頭部外傷(mTBI)と呼ぶことがあります。
今の自賠責保険の認定上は、軽症頭部外傷(mTBI)の場合は先ほどの基準を満たさないことになってしまうため、高次脳機能障害のような症状が出ていたとしても、認定を受けることはとても難しいのが現状ではないかと思います。
しかし、この基準をすべて満たさなければ脳に障害が発生していないのかといえば、そんなことはないはずです。
素人的に考えても、たとえ軽症であっても、頭部にダメージがあれば、脳のどこかが傷んでいる可能性はあるのではないかと思います。
最近の医学では、エビデンスと呼ばれる、根拠のある医療行為が求められます。これ自体はよいことなのですが、これが独り歩きすると、研究が進んでおらずデータが十分集まっていないものはすべてエビデンスがないとされ、被害自体を否定されてしまう恐れがあるのです。自賠責保険の認定の現場で起きているのは、まさにこれではないかと感じています。
被害を認めた内容の解決ができることもあります
もっとも、先日、私が依頼を受け解決した事件で、軽症頭部外傷(mTBI)の方について訴訟をした結果、訴訟上の和解により解決した事件がありました。
この事件は、自賠責保険では高次脳機能障害とは認定を受けられなかった方について、訴訟で認定を受けることを目指して訴訟を続けてきた事件でした。
結果として、訴訟でも、高次脳機能障害を正面から認定するまでには至らなかったのですが、担当裁判官は、被害者の症状は事故によって生じたものであることを認定し、判決に至ったとしてもこの認定は変えないつもりであるという心証を示しました。そして、裁判官からは、この心証を前提として、高次脳機能障害に置き換えた場合には後遺障害9級に相当する程度の被害であるとする和解案を双方に提案してきました。
私の依頼者も、相手方側もこの裁判官の和解案を受け入れることとなり、無事解決することになりました。
弁護士に相談してください
このように、たとえ「基準」に満たないとされる場合であっても、訴訟で被害の状況を立証することによって、よりよい解決に近づけることができる可能性は十分あります。
ですから、自賠責保険で認定が受けられなかったといってすぐあきらめてしまうのではなく、弁護士に相談してみてほしいと思います。
また高次脳機能障害かもしれないことについて気づかない方もたくさんいるのではないかと思います。頭部外傷を伴う事故に遭った方で、事故直後に意識障害があったという方、現在何らかの認知障害を疑わせるような症状や傾向が出ているという方も、一度は弁護士に相談してみて欲しいと思います。