「減少症」という用語にとらわれないことが大切です
みなさんは、脳脊髄液減少症という言葉をご存知でしょうか?
数年前に新聞等でも大きく報道されたことがあるので、言葉だけは知っているという方もいるのではないかと思います。
脳脊髄液減少症とは
脳脊髄液減少症とは、一般的には、何らかの理由で硬膜(脳や脊髄を包んでいる比較的固い膜)に穴があいて、そこから脳脊髄液が流れ出ることにより、頭痛その他の症状が出ることとされています。
脳脊髄液が減ってしまうと、脳の位置が下がるなどするため、脳や脊髄に影響が生じてしまい、頭痛やめまい、その他の症状が生じるのだといわれています。
もっとも、実は、この脳脊髄液減少症、症状が発生するメカニズムは完全には解明されていません。
これと似たような症状が起きる、硬膜内の圧力が下がってしまう「低脊髄液圧症候群」という疾患に似ていることから、おそらく髄液が漏れて髄液圧が下がるのだろうと推測されているだけです。
硬膜に穴が開く?
そのため、裁判の場面でも、硬膜に穴があいてそこから脳脊髄液が流れ出るという現象について、硬膜に針でも刺して穴が開いたかのように論じられることがあります。
ですが、硬膜はとても丈夫な膜です。
針で穴をあけたり、ナイフで切ったりするわけでもないのに、傷ついて穴が開くとすれば、いったいどんな作用が働いたというのでしょうか。
このように考えていくと、そもそも硬膜が針穴のように傷ついて物理的に穴が開くということを前提にしていることが、実は誤りなのではないかという可能性が出てきます。
脳脊髄液が流れ出るメカニズムは?
実際に、脳脊髄液減少症のメカニズムについては、硬膜の一部がもともと網目状の構造をしていて、その部分が交通事故などの外力を受けて引っ張られたりすることにより、網目が広がることで髄液漏れが増えることが原因であるという研究もなされているようです。
私も、「穴が開く」といわれるより、この研究の説明の方が、よほど正しい推論なのではないかと感じます。
ですが、日本の医学界では、公式にはこのメカニズムは認められていません。
そのため、裁判所も、まだ「よくわからないから認められない」という姿勢が強く、裁判で脳脊髄液減少症が認められたケースはまだ少ないのが現状です。
もっとも、裁判でも、はっきりとした根拠をもとに脳脊髄液減少症ではないと断定しているわけではありません。
「認定するには根拠が足りない」という、いかにも裁判らしい理由で結論を否定する傾向が強いだけです。
ですから、今後さらに研究が進み、メカニズムが明らかになっていけば、脳脊髄液減少症がきちんと認められることも期待できるのではないかと思います。