「考えること」の重要性
憲法の本質は立憲主義にある
といっても、みなさんにはすぐにピンとこないかもしれません。
最近、新聞などで話題になった憲法96条改正問題は、政治問題のように思われることが多いです。
ですが、憲法は立派な法学の科目の一つです。ですから、私たち弁護士の業務にも非常に深くかかわっています。
そんなこともあって、私は、弁護士会の活動で、高校生に憲法の理念を伝える憲法出前授業に取り組んでいます。
ところで、憲法は、高校であれば現代社会や政治経済の授業で教わることになっています。ですから、学校の先生が教える以外にいったい弁護士が何を教えるのか?と思われる方もいるかもしれません。
ですが、実は学校では、表現の自由や生存権などの人権を個別に学ぶにとどまることがほとんどです。憲法の理念や、憲法と現実との結びつきなどの本質的な部分については、あまり教えられていないのが実情です。
立憲主義とは
冒頭の見出しのとおり、憲法の本質とは、ずばり立憲主義にあります。
立憲主義とは、国家権力に制限をかけて国家権力から国民の権利を守ろうとする考え方です。
つまり、憲法は、国民が守らなければいけないルールではなく、国会議員や公務員など国家権力の側にある公務員に、国民の権利利益を侵害しないよう守らせるためのルールだということです。
これは、日本国憲法99条を読めばわかります。
日本国憲法99条は「憲法尊重擁護義務」という規定なのですが、憲法を尊重し擁護する義務があるのは「・・・国会議員・・・その他の公務員」とされていて、国民とは一言も書いていないのです。
この立憲主義は、ヨーロッパを中心に近代国家の発展の過程で生まれてきた、近代憲法の基本中の基本です。
しかし、先に述べたとおり、日本ではこうした憲法の本質部分の教育が徹底されているわけではありません。ですから、憲法を「国で一番えらい法律」くらいにしか考えていない人がかなり多いのです。
さて、最近の憲法96条改正問題では、「改憲派」と呼ばれていたような憲法学者ですら、「96条改正はおかしい」という意見を述べています。
それは、先に述べた立憲主義を知っていれば当然のことです。
憲法は国家権力の側にある人、公務員を縛っているルールですから、改正要件を緩和して喜ぶのは国家権力の側にある公務員だけで、国民には何のメリットもないことになります。
本当に憲法を変えてしまってよいのか、本当に私たち国民にメリットがあるのか。それは、より多くのみなさんに立憲主義をきちんと知ってもらった上で判断してほしいと思います。
ですから、私は、これからも多くのみなさんへ、特に将来のわが国を担う子どもたちへ、憲法の理念を伝える活動を続けていきたいと思います。