昼休みの電話当番は休憩時間? 労働時間?
令和7年(2025年)6月1日、労働安全衛生規則の改正で「職場での熱中症対策」が罰則付きで義務化されました。
内容について、以下の通り分かりやすく整理しました。
1. 背景
・昨年(2024年)の夏(6~8月)の平均気温偏差は、+1.76℃(1991〜2020年比)で、観測史上最高水準でした。
・さらに今年(2025年)の7月は、+2.89℃で、北日本では何と!+4.5℃を記録し、明治31年(1898年)の観測開始以降、最も高い値となっております。
・この温暖化・酷暑化の影響で、昨年(2024年)の職場における熱中症死傷者数は、1257人(うち死亡31人)。3年連続で30人以上という状況です。
・その死亡原因の多くは、 「初期症状の放置」と「対応の遅れ」。
・こうした深刻な事態を受け、労働安全衛生規則が改正され、令和7年(2025年)6月1日から事業者に対し、熱中症対策の実施が法律上の義務となりました。
2. 適用対象の作業条件
・WBGT(暑さ指数)28以上 または 気温31℃以上。
・連続1時間以上 または 1日4時間超 の作業。
・屋外・屋内を問わず対象(倉庫・工場・厨房などでも発生)。
1)暑さ指数(WBGT)の測定方法
1.WBGT計(専用測定器)を使う
・市販されている「WBGT計(黒球式の温度計)」で測ります。
・測定する要素は、
○湿球温度(湿度の影響)
○黒球温度(放射熱=日差しや熱源の影響)
○気温(乾球温度)
・これらを組み合わせてWBGTを算出します。
最近は、計算せずに自動で「WBGT値」を表示してくれる携帯型・据置型の測定器が普及しています。
2. 測定する場所・タイミング
・屋外作業なら、直射日光下で1.5mの高さ(作業者の呼吸域)。
・屋内作業なら、作業場所の代表点で1.1〜1.5mの高さ。
・基本は、作業開始前と作業中の定期的な測定が推奨されています。
2)気温31℃の測定方法
・普通の温度計(温湿度計など)で作業現場の気温を測定すれば足ります。
・ただし、「室内の空調が効いていない場所」や「直射日光下」など、実際に労働者がいる環境で測定する必要があります。
・事務所の冷房効いた場所の気温ではなく、作業環境そのものを基準にします。
3)補助的な方法
・気象庁や環境省が公開している 「暑さ指数(WBGT)予測情報」 やアプリを参考にすることも可能です。
・ただし、あくまで地域全体の目安なので、現場独自の測定が基本です。
3. 義務化された企業の対応
1)体制の整備
・緊急連絡体制の構築(連絡網・搬送先医療機関の情報)。
・熱中症疑いの報告窓口・責任者の明確化。
・外国人労働者への配慮(多言語、ピクトグラム等)。
・つまり、従業員が「自分が熱中症かもしれない」「他人に兆候を見つけた」といった報告ができるよう、連絡先や担当者をあらかじめ定める体制の整備。
・この体制を「関係作業者」に周知することが義務です。
2)手順の作成
・初期対応フローの明文化(掲示やマニュアル化)。
○作業からの離脱
○身体冷却(涼しい場所、氷・水・扇風機等)
○意識状態の確認
○必要に応じて医師による診察や処置
○医療機関への搬送 or 経過観察の判断基準
・事前に具体的な手順を定め、関係者に周知が必要です。
3)周知の徹底
・朝礼・ミーティング・掲示・メール・イントラネット等での周知。
・「異変を我慢せず、すぐ報告できる」職場の環境づくり。
・監督者だけではなく、作業を行うすべての従業員に教育・周知する必要があります。
#関係作業者の範囲
・暑熱環境下で、実際に作業に従事する労働者
○建設現場で外仕事をする人
○工場で高温作業を行う人
○屋外で長時間の警備・配送作業を行う人 など
・それらの作業に直接関与し、熱中症発症のリスクがある労働者
○同じ場所で補助的に作業する人
○現場を巡回する監督者
○短時間でも同じ環境下にいるスタッフ
・つまり、「暑熱作業に従事する人」+「その現場で活動する関連スタッフ」 をまとめて「関係作業者」と呼びます。
・これらの人たちに対して、事業者は
○報告体制の周知
○重症化防止の手順の周知
○教育・訓練
を実施しなければならない、というのが今回の義務化のポイントです。
4. 罰則・リスク
・違反した場合:
○個人 → 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
○法人 → 50万円以下の罰金
・規定を怠った場合、都道府県労働局長または労働基準監督署長からの使用停止命令の可能性もあるとの指摘もあります。
・万が一、熱中症による死亡・重傷事故が発生した場合、「安全配慮義務違反」として損害賠償請求のリスクもある点は要注意です。
5. 労働局・監督署の確認や調査のあり方
1) 定期監督(立入調査)
・労働基準監督署は毎年、災害の多い業種(建設、製造、運輸など)を中心に「安全衛生重点監督」を行います。
・今後は、熱中症対策の実施状況(報告体制・重症化防止手順・周知教育など)が重点項目としてチェックされます。
2) 災害発生時の調査
・もし労働者が熱中症で 死亡や休業4日以上 の労災となった場合、労災報告が義務。
・その際に監督署が調査に入り、事前に体制・手順を整備していたか が確認されます。
3) 指導・是正勧告
・調査の結果、義務違反が確認されれば、まずは是正勧告書が出され、改善計画を求められます。
・従わない場合は、司法処分(罰則適用)や使用停止命令もありえます。
●想定されるチェックポイント
・暑熱作業の有無・WBGT(暑さ指数)の測定記録
・報告体制の整備(連絡先・責任者)
・重症化防止手順(搬送手順・緊急連絡網)
・関係作業者への周知(教育記録、掲示など)
・作業環境の管理(休憩所・水分補給・作業時間短縮など)
・労働局や監督署は、定期監督や労災調査を通じて熱中症対策の義務化対応を確認します。
・特に 暑熱環境での作業がある職場(建設、製造、物流、警備など) は重点対象。
・書面・記録・実際の運用まで見られるので、形式だけでなく実効性のある体制づくりが求められます。
◆職場の熱中症対策チェックリスト
(2025年6月1日施行 改正・労働安全衛生規則対応)
1. 体制の整備
□熱中症疑い時の 緊急連絡網 を整備している
□搬送先医療機関の 名称・住所・電話番号 を明記し、周知している
□報告・対応責任者を明確にしている
□外国人労働者向けに 多言語資料・ピクトグラム を準備している
2. 初期症状の把握と教育
□初期症状(めまい・頭痛・吐き気・ふらつき・けいれん・生あくび・大量発汗など)を従業員に教育している
□自身や周囲の異変を 「我慢せず報告」できる風土 を醸成している
□年度初めや夏季前に 全員研修・注意喚起 を行っている
3. 対応手順の作成・周知
□熱中症疑い時の 対応フロー図 を作成している
□以下の流れを明確に定め、周知している
○作業からの離脱
○身体の冷却(涼しい場所・氷・水・扇風機等)
○意識・症状の確認
○医療機関へ搬送 or 経過観察の判断
□フローを 掲示・配布・イントラネット で周知している
4. 作業環境の管理
□WBGT(暑さ指数)または気温を計測・確認している
□WBGT28以上 or 気温31℃以上の場合の作業を把握している
□「連続1時間以上」「1日4時間超」の作業を抽出し、対策を講じている
□屋外だけでなく、屋内作業(倉庫・工場・厨房等)も対象として管理している
5. 周知・伝達方法
□朝礼・ミーティングで定期的に注意喚起を行っている
□メールやイントラネットでの情報共有を行っている
□社内掲示やポスターを用いて周知している
□外国人従業員向けに多言語表示や図解を活用している
6. 法令遵守・リスク管理
□改正・労働安全衛生規則の義務内容を把握し、社内に共有している
□違反時の罰則(6か月以下拘禁刑・50万円以下の罰金、法人も対象)を認識している
□毎年夏前に対策体制を見直している



