コラム
『資金繰表による経営管理のすすめ』
2016年9月28日
毎月の経営状況を正確に把握できる資料は「試算表」です。多
くの経営者様が試算表を見て、「売上が上がっている。」とか、
「利益が減っている。」などの状況を確認し、日々の経営判断
に役立てておられます。しかし、もし試算表そのものが間違っ
ていれば、そこから下される判断も間違ってしまう可能性が高
くなります。自社の状況を鑑みて、正確な試算表を作成するの
が難しいと考えるならば、思い切って、もっと簡素な管理方法
に切り替えるのもひとつの解決方法です。試算表ではなく資金
繰表です。
財務体質の強化に取り組んでおられる企業様の事例です。数か
月前から関与をスタートし、オブザーバーとして月1回のミー
ティングに参加してきました。ミーティングの参加者は社長、
取締役、経理担当者です。毎月、経理担当者が作成した試算表
をベースに議論を行います。
(経理担当者)
「先月の売上高は昨年対比伸びましたが利益は減っています。」
(社長)
「A社さんで値引したからじゃないかな。」
(取締役)
「いや、工場の人件費が増えたからではないでしょうか。」
(全員)
「うーん・・・」
昨年対比、売上高が伸びたにも関わらず、減益となった要因に
ついて、1時間程議論がなされて会議は終わりました。会議の
結論は、毎回「もっと売上を伸ばそう。」で締めくくられます。
しかし、そもそも減益ではなく増益だった可能性があります。
実際は減益ではなかったと考える理由は、試算表に在庫が反映
されていないためです。仕入額がそのまま原価となっており、
先月68%だった原価率が今月は77%になっています。明ら
かに異常な増加です。同社の平均原価率は70%ですので、今
月は単純に仕入が多かっただけで、在庫を考慮すれば実際は増
益だった可能性が十分にあります。
年商3億円未満の中小企業においては、正確に試算表を作成す
る機能が備わっていないことが多いため、実は、同社のように
不正確な試算表で経営判断がなされているケースも多いのでは
ないかと感じます。しかし、正確な試算表を作成するためには、
財務に精通した人材を雇用したり、毎月棚卸を行ったりしなく
てはならないため、負担が大きくなります。よって、正確な試
算表を作成することに固執せず、思い切って、キャッシュの動
きだけをまとめた「資金繰表」を、経営管理ツールにすること
を提案します。
企業が最も注意を払わなくてはならないのは、赤字になること
よりも資金を切らすことです。この点において、資金繰表の方
が試算表よりも資金の動きが良く分かります。また、在庫額、
売掛金、買掛金、減価償却費など、実態を把握しにくい項目は
最初から考える必要はありませんので、作成も簡単です。不正
確な試算表を管理ツールとするより、正確な資金繰表を管理ツ
ールとした方が、効率的かつ効果的かもしれません。
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