第5回 大工が見ている災害の備え 全5回
群馬にはまだ約7万4千戸。旧耐震の家で暮らす方へ、「命を守る選択」を行政とともに始めませんか
深健工舎の一級建築士大工のカズ こと 深澤一喜です。群馬県前橋市を中心に、伊勢崎市、玉村町、高崎市、渋川市、北群馬郡で、自然素材を使った高気密・高断熱・高耐震の家を、新築・リノベーション・リフォーム工事で手掛けています。設計事務所を併設した、心地よい快適な家をつくる大工工務店です。
今回は、ひとつの数字から始めます。
約7万4千戸 群馬県に残る「旧耐震」の家
群馬県の資料によると、県内には耐震性が不足しているおそれのある旧耐震基準の木造住宅が、約7万4千戸
残っています。
7万4千戸。それだけの数の家が、いまの耐震基準より前の考え方で建てられたまま、次の地震を待っている状態です。その中には、ご自分の家がそうだと知らずに暮らしている方も、きっと少なくありません。
そもそも「旧耐震」とは何か
「旧耐震」とは、昭和56年(1981年)5月31日以前に建築確認を受けた建物のことです。建築確認とは、工事の前に「この設計は法律の基準を満たしています」と役所などの審査を受ける手続きのことです。
昭和56年6月1日に建築基準法の耐震基準が大きく改められました。それより後を「新耐震」、前を「旧耐震」と呼んでいます。
目安として覚えていただきたいのは、「昭和56年5月以前に建てた(建築確認を受けた)家」
かどうか。建てた年が昭和56年や57年の場合は、着工が基準改正の前か後かで変わるので、確認通知書や登記の書類で日付を見てみてください。分からなければ、それも相談していただいて構いません。
なお、旧耐震だから必ず危ない、ということではありません。逆に、見た目がしっかりしているから大丈夫、とも言えません。わが家がどのくらい地震に耐えられるかは、診断をしてみないと分からない。ここが大事なところです。
「うちはもう古いから」と諦めないでください
耐震の話をすると、よくこう言われます。
「もう古いから、直すなら建て替えしかないでしょう」
「家じゅう壊す工事なんて、住みながらは無理」
「年金暮らしで、そんなお金はかけられない」
どれも、もっともなお気持ちです。ただ、耐震改修の考え方は以前と変わってきています。
群馬県も、比較的安価で工期の短い「低コスト工法」の普及に取り組んでいます。
私が「達人塾」に通い続けている理由
その普及の柱が、群馬県が主催し毎年開いている設計者・施工者向けの講習会「木造住宅耐震リフォーム達人塾」です。名古屋工業大学 高度防災工学研究センターが共催しています。私自身、オンライン版を含めて今年で5回受講しています。
受講のきっかけは、2つの問いでした。
ひとつは、一般的な耐震診断で使われている「一般診断法」ではなく、「精密診断法」で診るべきではないかということ。一般診断法は、分からないところを弱めに見て安全側に計算します。そのぶん、必要な補強量が多めに出ることがあります。精密診断法は、部材や接合部、建物の実際の状態まで踏み込んで、家の本当の強さを計算します。必要な補強を、必要な分だけに絞り込むための方法です。
もうひとつは、もっと低コストで耐震改修ができないかということ。新築と同じ考え方で補強すると、天井や床をはがし、また元に戻す工事に費用の多くがかかります。達人塾では、構造用合板や専用の金物を使い、天井や床をできるだけ壊さずに壁を補強する工法を学びます。工事費が抑えられ、工期が短くなり、住みながらの工事もしやすくなります。
築100年の家の再生にも、この工法を使っています
いま私は、設計士さんと組んで築100年の古民家の再生プロジェクトを進めています。この家の耐震改修にも、達人塾で学んだ耐震改修用の工法が採用されています。そして工事は、市の耐震改修補助金を使って行います。
築100年でも、諦めずに直して住み継ぐ道がある。行政の制度を使い、学んだ工法で、現実的な費用で進められる。その実例を、いま自分の現場でつくっているところです。
群馬県では、26市町村が耐震改修を補助しています
ここからが、今回いちばんお伝えしたいことです。
耐震は、一人で抱える問題ではありません。行政が一緒に取り組んでいる問題です。
群馬県の公式ページによると、木造住宅の耐震改修補助は、県内35市町村のうち26市町村で実施されています。人口比でいえば97%(令和5年7月末時点)。群馬県にお住まいの方のほとんどは、お住まいの市町村で補助を受けられる環境にあります。
また多くの市町村で、旧耐震の木造住宅は無料、または補助付きで耐震診断を受けられます。たとえば前橋市では、昭和56年5月31日以前に在来軸組構法で建てられた自己居住用の木造住宅について、耐震診断費の個人負担がない制度があります(窓口:前橋市役所7階 建築指導課)。
補助の対象・内容・受付期間は市町村ごと、年度ごとに変わるため、ここでは金額は書きません。必ずお住まいの市町村の担当課でご確認ください。
命を守る選択は、3つの順番で
始め方は、むずかしくありません。
1つ目。お住まいの市町村の担当課に、「耐震診断と耐震改修の補助はありますか」と問い合わせる。
2つ目。耐震診断を受けて、補強が必要か、どれくらい必要かを知る。
3つ目。補強が必要なら、どこを壊して、どこを壊さずに済むのかを説明できる会社に相談する。
最初の一歩は、電話一本です。費用もかかりません。
一級建築士大工として、ひとつだけ
大工の仕事に「墨出し」という作業があります。現場で基準となる線を引くことです。最初の線がずれると、そのあとの仕事が全部ずれていきます。
耐震改修の最初の線は、診断です。診断をせずに「建て替えしかない」と決めてしまうのも、「たぶん大丈夫」と放っておくのも、線を引かないまま工事を語っているのと同じです。まず線を正しく引く。そこから、本当に必要なことだけが見えてきます。
家は、家族の命を守る器です。地震が来てからでは、選び直すことはできません。来る前に選べることを、選んでおく。それが「命を守る選択」だと私は思っています。
公的な名前を出す訪問営業には注意を
最後にひとつ、大事な注意です。群馬県は、県が個別の住宅に耐震診断や改修を行うことも、民間業者に依頼することもないと案内しています。「県(市)の依頼で耐震診断に来ました」と突然訪ねてくる業者は、行政とは関係ありません。行政とともに始めるなら、入口は必ず市町村の窓口から。迷ったら、まず役所に確認してください。
まずは、わが家を知ることから
群馬県には、まだ約7万4千戸の旧耐震の家があります。そして県内のほとんどの市町村が、その家を守るための制度を用意しています。
まずは無料診断で、ご自分の住まいがどのくらい地震に耐えられるのかを知ることから始めてみませんか。
「補助が使えるか分からない」「診断で補強が必要と言われて止まっている」「住みながら直せるか知りたい」――その段階で十分です。深健工舎では、市町村の制度の確認から、診断結果の読み解き、壊す量を抑えた補強のご提案まで、一級建築士と大工の両方の立場から正直にお答えします。
一級建築士大工のカズ こと 深澤一喜
深健工舎/大工工務店2代目・一級建築士
構造塾で木構造の耐震性を学ぶ
群馬県前橋市を中心に、伊勢崎市・玉村町・高崎市・渋川市・北群馬郡で対応しています。
根拠のある提案と、誠実な対応をお約束します。
参考資料
・群馬県|木造住宅の耐震改修の促進について
https://www.pref.gunma.jp/site/kenchikugyousei/11692.html
・群馬県|令和8年度 木造住宅耐震リフォーム達人塾(対面版)のご案内
https://www.pref.gunma.jp/site/kenchikugyousei/718594.html
・前橋市|木造住宅耐震診断者派遣・木造住宅耐震改修訪問相談事業
https://www.city.maebashi.gunma.jp/soshiki/toshikeikakubu/kenchikushido/gyomu/5/2362.html
※本コラムの参考情報は2026年10月時点の各公式サイトの記載に基づきます。補助の内容・受付状況は市町村ごと・年度ごとに変わりますので、最新は各市町村の窓口・公式サイトでご確認ください。


