秋田木工製スタッキングスツールのメンテナンスをしました。
目次
「ビンテージのアーコールの椅子を持っています・・・。」
背もたれのぐらつきが出ていてあぶないです・・・。」
最近、東京都から愛媛県西条市に移住されたI様よりお問い合わせをいただきました。
写真左が今回お問い合わせをいただいたハイバックタイプのオールパーパスチェア、写真右が通常サイズのオールパーパスチェアです。
今回のぐらつき修理は、写真左のハイバックチェアを作業いたします。
背もたれのスピンドル(タテ桟木)が座面ではなく、座面下の横桟木に取り付けてあるのが特徴です。
そのためぐらつき修理におきましても、慎重作業が要求されます。
アーコールさんは、英国の老舗ウィンザーチェア専門メーカーでTOKI家具館メンテナンスも取り扱いをしている上質な家具メーカーです。
オールパーパスチェアは1956年より製造販売されており、ハイバックチェアは製造中止となりましたが、通常サイズは現在も製造されている椅子なんです。
私の私見ですが、ハイバックチェアは、背もたれが高すぎるため負荷がかかりやすいデザインですので、毎日の使用に注意が必要なため製造中止になったのかもしれません・・・?
修理作業前/オールパーパスチェアを工場まで持ち帰りました。
シンプルで上品な椅子ですが、座面下のサイズにしたら、背もたれが高すぎるため、「ギッコン バッタン」させたりしますと負荷がかかるデザインでもあります。
アーコールさんの純正マークが残っていました。
修理作業中①/フレームの分解作業
フレーム全体を構成する接合部を確認しましたが、背もたれの接合部以外は丈夫なものでした。
ウィンザーチェアの強度の要である“くさび” の打ち込みシロが浅いように感じました。
古い接着剤は取り除き、改めて組み立て作業に入ります。
中央のスピンドル(背もたれのタテ桟木)を差し込む穴の古い接着剤も取り除きます。
修理作業中②/古い接着剤の除去とほぞ先補強作業
初めに、スピンドル(背もたれのタテ桟木)の溝切り作業をしたのちに、古い接着剤を取り除いていきました。
座面のほぞ穴に対して、ほぞ先がかなり緩くなってしまてましたので、ほぞ先に突板(0,25mm)を巻き付けて貼りました。
新たにウィールナット材にて “くさび”を作りました。
ウィンザーチェアの強度の要である“くさび” の打ち込み部分です。
修理作業中③/組み立て作業
オールパーパスチェアの組み立ては、慎重作業が要求されるため、十分な治具(補助的な道具)の取り付けや養生をしました。
オールパーパスチェアの圧着には、丸型の笠木(背もたれ上の横桟木)を痛めないために、通常のクランプではなく紐にて行いました。
もちろん、ウィンザーチェアの強度の要である“くさび” は、十分な接着剤を入れて打ち込みました。
“くさび” の飛び出ている部分は、あぶないので完全乾燥後に切り取りいたします。
修理作業中④/くさびの切り取りと水平バランス調整作業
接着剤が完全乾燥後、“くさび” の飛び出ていた部分を切り取りました。こうしておくと安全です。
続いて、水平盤(ガラスの厚盤)に椅子をのせて脚先端の水平バランス調整を行いました。
TOKI家具館メンテナンスでは、どんな家具修理でも最後の調子見作業を基本作業としています。
特にダイニングチェアにおいては、この水平バランス調整作業が、永く使っていただくうえで、とっても大切な作業なんです。
ガラスの厚盤を基準に、横切りのこぎりで調整しますと、ガラスの厚盤に「ピタッ!」と接地しています。
修理作業後/オールパ-パスチェアがよみがえりました。
写真では、その完成度はわからないのが残念ですが、
アーコールさんのオールパーパスチェア(ハイバック)がきれいによみがえりました。
この椅子は、特に背後から見ますと、その美しさが際立つと感じました。I様、ご依頼いただきありがとうございました。土岐泰弘
21世紀はメンテナンスの時代
近年、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉を、テレビやラジオでよく見聞きするようになりました。
20世紀は、大量生産 → 大量消費 → 大量廃棄 の時代でした。
お客様からは「家具って使い捨てでしょ・・・。」という言葉もまだまだ聞きます。
でも、使い捨てを続けてますと、SDGs(持続可能な開発目標)になりません。
コロナ渦の現在・・・永く使える家具を注文に応じて必要な数だけ作り、絶えずメンテナンスを繰り返し永く使っていく・・・。
メンテナンスを繰り返すたびに、家具への愛着も増していくと想われます・・・。
最後までお読みいただきありがとうございました。土岐泰弘