九州民芸家具 ラダーバックチェアの座割れ+フレームぐらつき修理(後編)
①2021年8月/東京都・Y様からお電話をいただきました・・・
「土岐さんのフェイスブックページを見ました。」
「50年あまり使っている九州民芸家具の椅子を直してほしいのですが・・・。」
東京都在住のお客様ですので、リモート(メールや電話)での打ち合わせの元、2021年10月末、九州民芸家具 ラダーバックチェアが当店に届きました。
TOKI家具館メンテナンスが県外のお客様の修理やリノベーションをお受けする場合、運送には、梱包~引き取り~運送までを一環して行ってくれるヤマトホームコンビニエンスさんを利用させていただいています。
②修理作業前/九州民芸家具 ラダーバックチェアの確認
この写真は、ダンボールから出し梱包を取り外す前の状態です。丁寧にエアーキャップ(プチプチ)で梱包してくれていました。
梱包を取り外し、九州民芸家具 ラダーバックチェアとご対面です。
梱包を取り外し、椅子のウラ面を確認しました。
東京都の家具店様で修理した時に、取り付けたという “ちぎり” も確認できました。
この “ちぎり” はナラ材のようで、民芸色の椅子には目に付く存在のように見えました。
なにより、この “ちぎり” では、強度が出ませんし、見た目にも良くないです。
ふつう “ちぎり” は、①首が太く②左右対称③角が尖っている、のが望ましいと想います。
東京都の家具店様で修理した時に、脚の接合部には、数多くの木ネジが埋め込まれていました。
九州民芸家具のブランドマークが残っていました。
③修理作業中1/フレームの分解作業
ぐらつきが出ている椅子を修理する場合・・・
どんな椅子でも、はじめは可能なかぎり分解していきます。
この時に大切な作業は、各接合部に墨付けしておくことなんです。
墨付け作業をしておかないと、組み立てていく時にまちがってしまう可能性があるんです・・・。
次に、東京都の家具店様がネジ込んだ木ネジを1本ずつ折れないように抜いていきました。
木ネジは、全部で11本もネジ込んでいました。
かなり細長いネジのため、内1本は、残念ながら折れ込んでしまっていました。
次に、フレーム全体と割れてしまっていた座面を分解していきました。
座面をフレームに取り付けてあった木ネジは、“マイナス” を使っていました。
現在では考えられませんが、“マイナス” の木ネジを見ますと、ノスタルジーな雰囲気を感じさせられます。
④修理作業中2/座面のビスケットジョイント加工
続いて、割れてしまった座面に強度を持たせるため、座面の側面部に “ビスケットジョイント” の加工をしていきました。
この写真は、“ビスケットジョイント” の加工前の状態です。
割れてしまった座面などの接合部は、今、割れてなくても近い将来に割れてくる可能性があります。
そのため、当て木をして座面を叩いてみると4分割に剥がれました。
東京都の家具店様が埋め込んでいた “ちぎり”は、事前に取り除いていました。
“ビスケットジョイント” の加工ができた状態です。
座面の前後には、圧着に使う専用の治具(補助的な道具)を作っておきました。
続いて、ソマックス製T型クランプにて、圧着していきました。
座面上下には、当て木をしてソマックス製スナップクランプにて締め込みましたが、これは、接合面にできるだけ目地(段差)が出ないようにする工夫です。
Y様の椅子は、50年余り使ってきた味わいを残すため、塗装作業をしませんので、できるだけ目地(段差)が出ないように作業しました。
この写真は、座面の圧着作業より12時間以上経過し、完全乾燥した状態です。
⑤修理作業中3/新しい “ちぎり” の製作作業
東京都の家具店様が埋め込んでいた “ちぎり” を削り取りましたので、これから新しい “ちぎり” を作っていきます。
材料には、民芸家具と色合いが近いブラックウォールナットを選びました。
Y様用の “ちぎり” は、1個のみを作りますので、バイスで固定し、胴付きのこぎりを使い手加工作業にて切り出していきました。
Y様用の “ちぎり” の切り出しができました。
“ちぎり” は、①首が太く②左右対称③角が尖っているのが、強度も出て、見た目にもきれいです。
⑥東京都・Y様の九州民芸家具ラダーバックチェア修理作業は後編へ
近年、多くなってきた修理作業の一つが、九州民芸家具をはじめとした、良い家具なんだけど、現在そのメーカー様が廃業してしまっているという家具です。
例えば、曲げ木が特徴の鳥取家具様の椅子、素朴な風合いが特徴の飛騨高山の大日様などなど・・・
TOKI家具館メンテナンスでは、思い出深いこのような家具メーカー様の家具も、可能な限り手を尽くしての作業にチャレンジしたいと考えています。
TOKI家具館メンテナンスが、苦手とする複雑な椅子張り加工は、私が所属する技能士会の職人様たちとの技術協力体制もとっています。
「家具で困っている」という方がおられましたら、お気軽にお問い合わせください。
最後までお読みいただきありがとうございました。土岐泰弘