無料知的財産相談会9/20
シリーズ「知財リスク」の第5回目になります。今回は「刑事罰」について解説します。
刑事罰は特許権者の「権利」ではありませんが、侵害者には大きなリスクです。
あまりマスコミ等では取り上げられませんが、侵害の行為に対しては刑事罰が適用される可能性があります。
侵害罪
特許権(他の知的財産権、及び、不正競争法違反にも刑罰があります。)を侵害すると、
罪の重さは「十年以下の懲役」、「千万円以下の罰金」、又は、併科です。
窃盗罪が「十年以下の懲役」・「五十万円以下の罰金」であるのと比較すると重い刑罰です。
この刑罰の重さは侵害の抑止効果を狙って改正されたものです。
工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/document/chikujokaisetsu21/tokkyo.pdf
「(自然)人」が罪に問われる
「懲役」という身体刑が設けられている通り、「自然人」(≠法人)が刑罰の対象となります。つまり、侵害罪は従業員等が対象になります。
ただし、両罰規定があり、従業員が侵害罪等の対象になった場合には法人も一緒に刑罰を受けることになります。
「会社の命令でやったから」「従業員が勝手に」みたいなことで押しつけていると飛び火する可能性もあります。
こういった点でも、他人事ではなく侵害にならないように会社と団結して侵害にならないような対策を取ることをお勧めします。
特許法の侵害罪で検挙される人数は1桁/年程度と少ないです。
知的財産権関係では、商標法違反と著作権法違反、いわゆる偽物や海賊版・違法アップロードで検挙される人数の方が多いです。
令和2年版 犯罪白書 第4編/第3章/第3節 知的財産関連犯罪
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/67/nfm/n67_2_4_3_3_0.html
令和元年版 犯罪白書
https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_4_4_3_0.html
特許庁 刑事責任の追及を捜査機関に求める
https://www.jpo.go.jp/support/ipr/kyusai/keijisekinin.html
根拠条文
(侵害の罪)
第百九十六条 特許権又は専用実施権を侵害した者(第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(両罰規定)
第二百一条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑
2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。
3 第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。
ちなみに刑法では法人の「犯罪能力否定説」と「犯罪能力肯定説」がありますが、特許法の構成を見る限り両方の要素がありそうです。
また、他の刑法と同様に「故意」が要求される(刑法第38条)点が民事との違いの1つでしょう。
なぜ適用が少ないか?
理由は様々のようです。1つに、権利成立後も無効審判で無効となる場合があるため、捜査機関が慎重になるがあるようです。
他にも、民事不介入、及び、権利者がそこまで処罰を望まない等も理由としては考えられる学説があります。
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以上、ご参考まで。