【知財】シリーズ「侵害をチェックするには」(第1回)
知的財産関係で慣行上使用するマークがあります。今回はマークの解説をします。
前回、法律上は「特許表示」や「商標登録表示」というルールがあります。
日本では法律上はどういったマークで表示しなさいとまでは決まっていません。
一方で、商慣行、外国の法律等も含めると、下記のようなマークをつけることがあります。
Rマーク
英語の「Registered Trademark」を示し、「登録商標」であることを示します。
ちなみにMicrosoftIMEであれば「登録商標」を変換するとマークが表記できます。ただし、環境依存文字なので注意して下さい。
日本語で「商標登録第〇〇号」や「登録商標」と記載するのと同義になります。
TMマーク
英語の「Trademark」を示し、「商標」であることを示します。商標登録されたものか、そうでないもの(未出願)かを問いません。
SMマーク
英語の「Service Mark」を示し、「役務商標」であることを示します。
法律上、商標は「商品」(≒有体物)を対象にするか、「役務」(≒サービス)を対象にするかのどちらかです。
SMマークは、後者のサービスに対して使用する商標になります。商標登録されたものか、そうでないもの(未出願)かを問いません。
Cマーク
英語の「Copyright」を示し、「著作権」があることを示します。
「Copyright」と記載するのと同義です。
なお、「P」のマークはレコード著作権マークになります。
許諾を得ないレコードの複製からのレコード製作者の保護に関する条約第5条 保護の方式
https://www.cric.or.jp/db/treaty/kyo_index.html
PAT
英語の「Patent」の略称です。登録済みの場合に記載します。
なお、バーチャルマーキング(virtual marking)等といったインターネット上で表示する手法も認められています。
「PAT.P」は「Patent pending」を示し、「特許出願中」を示します。また登録されていない状態です。
地域団体商標マーク
地域団体商標という制度で取得された地域団体商標であることを示します。商標権の一種です。
特許庁 地域団体商標マーク
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/mark.html
特許庁 地域団体商標
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/index.html
GIマーク
英語で「Geographical Indication」を示し、登録済みの地理的表示であることを示します。
農林水産省 地理的表示マーク
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/gi_mark/
トラップストリート(マークではありません。)
著作権のデッドコピー対策に用いられる手法の1つです。
もともとは地図(ちなみに地図は一般的に著作権法上の著作物です。)に本来ない道(=嘘の道)を書いて模倣品にそれがあれば模倣したことを立証する有力な証拠になるというものです。
ソフトウェアのソースコードでも同じような手法があり、ソースコードに、わざと不要なコードや特殊な記載の仕方のコードを入れておくと模倣されたことが立証しやすいというものです。
引用符(マークではありません。)
著作権法上の引用をする場合に、引用している箇所を区切るために示します。
ネット上では「”(ダブルクォーテーションマーク)」で、論文等では「」(鍵括弧)で区切るのが慣行です。
他の著作物を引用する場合には、引用している部分(=他人の著作物)を明確に区別することが引用を行う要件の1つです。「明瞭区分性」等と呼ばれます。
著作権法第32条 引用
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048#Mp-At_32
マークを付ける意味は?
まず日本の知的財産権法上、権利行使の強さ(損害賠償額等)には理論上影響がありません。
一方で、マークを付けることで他者が不当に使用するのを抑止する効果が期待されています。
また、法律で虚偽表示を禁止している理由の1つは、マーク(特に登録済みの場合が該当します。)をつけると「箔がつく」・「信用がある」ものと認知されるからです。
特に登録済みの場合には特許庁という官庁が審査をして認めたものです。いわゆる「お墨付き」であると言えるのです。そのため、そうでないものにマークを付すのは禁止されているという趣旨があります。
(専門の人向けの解説)
1:権利の効果差
パリ条約上、権利を認めさせる(=権利行使要件)に表示は義務が課されません(パリ条約 第5条D)。
つまり、特許表示等をしなくとも権利行使には影響ないと言え、しかも世界的にも(パリ条約加盟国は多いですから)成立することを示します。
パリ条約条文
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/chap1.html
ただし、条約上、権利行使を認めないのはルール違反ですが、権利行使の度合いに差をつけるのはルール違反ではありません。
例えば、米国法では表示の有無で差がつく場合があります(35 USC 287(a))。そのためマークを付ける意味は特に外国との取引がある場合には大きくなります。
日本国内法下では、特許表示は努力義務に留まります。
権利が登録されると、特許公報が発行されるため(特許法第66条)、特許公報で権利の内容、及び、存在が分かるようになります。
以降、特許発明については過失が推定されます。この点に特許表示についての要件はありません。
特許法第103条 過失の推定
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121#Mp-At_103
2:普通名称化の防止
商標は使用頻度が高くなると、普通名称化するという議論があります。「周知」→「著名」を超えて「普通名称」のように使われるようになるという理論です。
商標が普通名称であるとなると、理論上、商標権の権利行使が制限される、無効理由等の問題が生じてきます。
そのため、普通名称ではない(≒ある企業の登録商標である)ことをアピールするのに、マークを付けるという意味が出てきます。
商標法第26条 商標権の効力が及ばない範囲
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_26
商標法第46条 商標登録の無効の審判
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000127#Mp-At_46
3:明細書上のルール
明細書等(特許請求の範囲、及び、図面等も該当します。)は、原則商標での記載がダメであり、拒絶理由とする規則があります。
そのため、原則普通名称・学術用語で記載します。例えば、「Windows」はMicrosoft社の著名商標なので明細書では「Operating System(OS)」といったように記載します。
特許・実用新案審査ハンドブック 第II部 明細書及び特許請求の範囲 2003 明細書、特許請求の範囲又は図面に商標名が記載されている場合の取扱い
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/02.pdf#page=10
ただし、全く記載してはならないわけでなく、適当な学術用語がない場合には(登録商標)等の記載をすれば記載してもよいとされています。
上記のマークは、登録されていないものにつけると「虚偽表示」の行為となる場合があります。
当該行為は刑事罰があります。詳しくは前回解説しておりますのでご参照下さい。
上記の内容で不明な点がございましたら、お手数ですがメール等でお問い合わせ下さい。
以上、ご参考まで。