マイベストプロ千葉
坪井央樹

弁理士・中小企業診断士の資格を持つ知財関連の専門家

坪井央樹(つぼいひでき) / 弁理士

坪井央樹

コラム

【知財】【基礎】特許権の放棄とは

2021年6月6日

テーマ:知的財産

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: ビジネスモデル

新型コロナウイルス用のワクチンの特許権を放棄するかの議論があります。
例えば、本日のニュース等です。これに関連する解説をしてみようと思います。

まず、知的財産権・知的財産制度は下図のようなサイクルを想定しています(厳密には特許の例です)。



①開発/発明
技術を新しく創り出すことです。人件費・設備費・研究費・調査費等の様々な費用が発生します。
②出願/権利化
①で完成した発明を特許出願します。審査を経て特許権が発生します(進歩性等の要件を満たしている必要はあります)。
③実施/ライセンス
営業・生産・販売・流通させることです。また、他者に特許権についてライセンスすることも可能です。これらにより「売上」が発生します。
④回収
③で発生した「売上」を回収します。
⑤投資
設備投資等です。次の技術を作り出すための準備ともいえます。

新型コロナウイルス(COVID-19)の場合
①ワクチン→②ワクチン用の特許(製薬会社等が特許権者になります。)→③ワクチンの販売等→④ワクチンの代金を製薬会社がもらう→⑤新薬開発へ
ということになります。
まず、理論上・法律上、特許権者だけが特許発明を業として実施できます(ライセンス等は別の話になります)。
特許権者以外は特許された製品を生産・販売・流通させられないということです。理論上、市場を「独占」できるということになります。
「独占」、つまり、ライバルがいないので③・④がとても行いやすい環境でビジネスが可能になります。
結果的に④→⑤→①が促進されて、良い技術が出てくる→良い技術で社会・経済が良くなっていくという「好循環」のサイクルです。
もう少し経営戦略・マーケティング用語を入れると下図のようなイメージです。



近年では上図のサイクルとは少し変わった「知財金融」等といったサイクルもあります。下図のようなイメージです。



特許権を放棄すると、「独占」でなくなります。すなわち、誰でも生産・販売・流通させることができるということになります。
本当ならば(④→⑤)とさせたいところですが、ワクチンをできるだけ早く多くの人に接種させることを優先にした結果が特許権の放棄という手なのでしょう。
懸念されるのは④→⑤→①という「好循環」のサイクルが断たれる点にあります。
具体的には、④資金が回収できない→⑤次の投資ができない→①次の技術が出てこないということになります。
ワクチンのケースでいえば、新薬の開発に投資した費用を回収できないと、製薬会社が現行のワクチンを含む営業を維持できない・他の病気の薬も開発できないとなってしまう可能性です。
一方で回収させたからといってもすべての利益が④→⑤→①になるとは限らないという点もあります。
回収した利益、つまり、金銭は新薬開発以外に使ってはならないというルールはありません。
マーケティング手法の1つに「コーズリレーテッドマーケティング」というやり方がありますが、
この手法は売上を社会貢献等の公益のために回すと約束するので製品等を選んでもらえるという手法です。
この手法の応用として特許による収益が一定以上開発費に回ると約束されるのであれば④回収は許されるのでしょうか

今後第2・第3の新型コロナウイルスが出てくる可能性はあるでしょう。
今は余裕がないのでしょうけれども今後どうしたら新薬のような新しい技術を素早く展開させられるかは議論がされることを願います。
以上

この記事を書いたプロ

坪井央樹

弁理士・中小企業診断士の資格を持つ知財関連の専門家

坪井央樹(坪井央樹)

Share

関連するコラム

コラムのテーマ一覧

坪井央樹プロへの
お問い合わせ

マイベストプロを見た
と言うとスムーズです

お電話での
お問い合わせ
03-5776-2700

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

坪井央樹

坪井央樹

担当坪井央樹(つぼいひでき)

地図・アクセス

坪井央樹プロのコンテンツ