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不動産鑑定士はどのような手順で価格を決めているのか

小川哲也

小川哲也

テーマ:不動産鑑定士の活用

不動産の活用、問題解決の答えは全て価格、賃料に表現できる



不動産の諸問題はつまるところ不動産の価格と賃料に行きつきます。不動産を開発、購入、組替え、賃貸借、交換、相続、贈与、分与、退去等、何をするにも価格と賃料がついて回ります。
我々、不動産鑑定士はその指標となるべく、適正な不動産取引、計画の一助になるために日本で唯一存在している専門士業です。
しかし、不動産鑑定士自体の知名度の低さもあり、存在自体を知らない方もかなりいらっしゃいます。また、資格名と仕事概要を知っていても、どんな手順を踏んで鑑定評価書を作成しているかを知っている方は少ないと思われます。

そこで今回は不動産鑑定士が実際に不動産鑑定評価書を作成する場合に、何をどうやっているのかを手順を踏んで説明しようと思います。なるべく分かりやすく説明させて頂く関係上、いわゆる鑑定評価の手順とされている正式のものとは違いますので同業の方はご了解下さい。
最初に概略を表示するとこんな感じです。

不動産鑑定評価の手順







(1)お仕事の受任(市街地の更地の場合)
お仕事のご依頼を受けて、ご依頼の目的、鑑定士との利害関係等を確認し受任可能であれば契約書を取り交わし、鑑定評価書のスペック等を記載した確認書をお渡しして必要資料の受渡し、現地調査の日程確認等を行います。

(2)物件調査
では早速評価作業が始まりますがまずは物件調査です。土地の場合、物件調査で肝となるのは、その土地に建築が可能かどうかです。建築確認申請が通るかどうかが一番重要になります。建築確認申請が通るためには、接面する道路が建築基準法上の道路と認定されているか、その道路と間口2m以上接しているか等が重要となってきます。また、宅地と道路の間に帯状の別の土地があったりすると問題になったりもしますね。さらに、建物を建築する際にはセットバックをしなければならない土地もあるため、その点についての調査も重要です。

次に重要なのは、何が建てられるのか、建蔽率、容積率、その他に制限がないか等を調べます。具体的には建築基準法、都道府県条例、都市施設を含んだ都市計画上の制限、地域的な制限等を調査します。その他インフラ関係の調査も必須です。また、土壌汚染がないか、埋蔵文化財包蔵地に該当しないか等も、実際の費用に関係するため見逃すことは出来ません。

権利関係を確認するには、ネットや法務局で登記簿、公図や地積測量図等を取得します。不動産鑑定士の場合は地歴を調べるために閉鎖登記簿も取ったりします。登記簿には地役権、地上権、賃借権が登記されていることもありますので、土地に所有権以外の権利が付着しているか否かも重要になります。

現地では境界杭等の確認、隣地との間で越境物等がないか等も把握しなければなりません。登記簿には記載が無いものの建物や構築物が存在している場合もありますので、その有無を確認します。
また、土地と道路の高低差、土地の傾斜、残置物、地中埋設物、間口奥行、土地の形状、規模等の確認を行います。
さらに、周辺に崖地、河川、嫌悪施設がないか、その他の環境を調査します。
対象不動産の現地調査は当然ですが、取引事例、賃貸事例、利回り事例等においても現地を確認します。なぜなら、事例の現地も見ないと対象不動産と比較が出来ないからです。

物件調査が不十分だと不当な鑑定評価になってしまいますので漏れがないように注意が必要です。ただ、調査用に必要調査項目を記載したメモ等を作成しておけば、初心者でも調査可能です。注意点としては、役所の方によっては重要なところを軽く流して教える場合もありますので、一つ一つきちんと確認しながら調査することが大事になると思います。
価格を出すためには上記のような調査資料、一般的経済資料、地域資料、周辺取引事例、賃貸事例、利回り事例が必要になってきます。建物がついている場合は建設事例等も収集します。





(3)評価作業(更地の場合)
本当は上記の調査を行う前に評価方針等を決めています。自分の足や各所から集めて評価方針に則り評価を行います。

1)対象不動産の確定
現地や役所等の調査に基づき、対象不動産の範囲を確定致します。簡単に言えば面積を確定するということです。現地で越境物があるか、境界杭はどうなっているか等も考慮します。また、権利関係も調査に則り確定致します。

2)一般的要因の分析
いわゆる日本経済、金融情勢、都道府県経済等の動向、不動産市場の動向等を分析します。

3)地域要因の分析
対象不動産が属する近隣地域を判定し、その地域や周辺地域の特性、市場動向、土地価格水準等を分析します。また、道路、交通、行政、環境等の要因も分析します。この中で、「標準的使用」をいう地域の標準を判定します。例えば戸建住宅としての使用が標準等とします。
言い換えれば、その地域はどんな地域なのか、どんな建物が多く存在しているのか、その地域の不動産マーケットはどうなのか等を分析検討するということです。

4)個別的要因の分析
地域要因分析を踏まえて、対象不動産の、道路、交通、行政、環境等を把握し、地域の標準と比較します。土地の形状、間口、高低差、傾斜、境界関係、土壌汚染、埋蔵文化財、埋設物、残置物の状況、隣近所の状況、セットバックの有無、道路負担の有無、計画道路の有無等を反映し、地域分析を踏まえながらその土地について何を建てるのが一般的に考えて一番良いかどうか「最有効使用」というものを判定します。例えば共同住宅としての使用を最有効使用と判定した等とします。

5)鑑定評価方式の適用
簡単に言えばどの方式を使うかということです。
原価法、取引事例比較法、収益還元法、開発法等
一般的には不動産鑑定評価の場合、二つ以上の方式を使います。どうしても一つだけしか採用できない場合は、その理由を付して一つだけを採用する場合もあります。

各手法を一つ一つ説明すると、それだけで一冊の本になりそうですが、市街地の更地で規模が中小程度の場合は、取引事例比較法、収益還元法(建物想定での土地の収益価格)を使い、規模が大きくなると開発法(マンション想定、建売住宅想定、土地分譲想定)も併せて使うのが一般的です。




では、各方式を簡単に説明します。
①原価法:価格時点において再調達する費用を算定し、これに経年等による減価修正を行って求める価格です。一般的に市街地の宅地では使わない。(対象が土地建物の場合は通常使います。その場合、土地は取引事例比較法を用い、建物は原価法を用いて合算して積算価格として算定します)

②取引事例比較法:位置、道路、行政条件、環境、規模等が類似した各取引事例から各要因を比較して求める価格。事例が多い場合はマーケットの実態を反映しやすいです。

③収益還元法(直接還元):対象不動産が生み出す総収益から総費用を控除した純収益を還元利回りで還元して求める価格。収益還元法には上記のように単一年度の純収益を還元利回りで永久還元する直接還元法や、投資期間のキャッシュフローを分析して各年の純収益の現在価値と最終年(出口)で売却する場合の現在価値を合算させて求めるDCF法等があります。また、その他にもインウッド(有期還元)、収益分析法等色々と種類があります。賃貸向不動産では重視される価格です。

④開発法:デベロッパー等の販売総額から通常の建物建築費相当額(宅地分譲の場合は造成費等)及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格です。デベロッパーが仕入れそうな土地においては採用される方式です。

不動産鑑定評価の場合は、基本的に違う方式でアプローチして、それぞれ出てきた価格を分析して、結論に導くための調整を行います。これを試算価格の調整といいます。しかし、戸建住宅ばかりの地域で戸建住宅賃貸マーケットが存在しない地域の更地の場合、取引事例比較法だけで出す場合もあります。

6)鑑定評価額の決定
上記の試算価格の調整を受けて鑑定評価額を決定します。

7)鑑定評価書の検討、チェック
当然のことながら鑑定評価書を発行する前に内容の再検討、チェック、修正等を行います。

(4)鑑定評価書の発行、納品、説明
鑑定評価書を発行し納品致します。納品の際に説明を行う場合も多いです。できるだけ分かりやすく要点を説明致します。ご質問にも丁寧に応対致します。

こんな手順で我々は不動産鑑定評価を行っております。これらは不動産鑑定評価基準、国交省ガイドライン、業界団体の業務指針、実務指針等に則り厳密な手順に基づいて評価作業を行っております。
高価で重要な資産である不動産ですので、いい加減な価格設定を行うと不足の損害を被る可能性がございます。
是非、不動産の価格、賃料については不動産鑑定士に一度ご相談下さい。
また、こちらのHPもご参考にして下さい。

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小川哲也(不動産鑑定士)

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不動産コンサルティング会社、デベロッパーでの実務が豊富な不動産鑑定士。相続における借地権・底地の問題に強い。また、証券化案件の豊富な実績から、実態に即した価格や計画の提示で、投資判断をサポート。

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