お仏像を修復するタイミング(1)
お仏像の中を覗いたことがある人は多くはないと思いますが、
中に文書が入っていることがあります。
よほど古いお仏像であれば、入っているのは古文書と言ってもいいでしょう。
この文書を胎内文書(たいないもんじょ)と言います。
今回は、胎内文書についてお話ししたいと思います。
お仏像の作り方
お仏像は構造上、体の中に空洞ができています。
胎内文書はたいてい、この空洞に入っています。
なぜ空洞があるのかをご理解いただくために、まずお仏像の作り方からご説明します。
お仏像は木材を彫って作ります。
平安時代(794年~1185年)の中ごろまでは、1本の大きな木を彫ってお仏像に仕上げていく
一木造(いちぼくづくり)がお仏像作りの主流でした。
ところが、平安時代の中ごろにお仏像の大ブームが起こり、
お仏像の注文が仏師さん、すなわちお仏像を彫る職人さんに殺到したため、
お仏像作りが追いつかなくなっていきました。
というのも、お仏像を作るには、まず木を乾燥させなければいけないのですが、
お仏像に彫り上げるほど大きな木の場合、
この乾燥にかなりの時間がかかってしまうからです。
そこで主流になっていったのが
寄木造(よせぎづくり)という工法です。
寄木造の普及とともに
寄木造は お仏像を膝や両腕、頭部などのそれぞれのパーツごとに彫り、
最終的にそれぞれのパーツを組み立てて仕上げます。
これだと、それほど大きな木は必要なく、パーツごとの小さな木を集めて作ることができます。
小さな木であれば、大きな木ほどには乾燥にも時間がかかりません。
また、パーツごとに彫るので分業が可能になり、お仏像作りのスピードアップができるのです。
胎内文書は一木造にもあったようですが、
寄木造の場合、たとえばお仏像のお顔部分を外して
お仏像の中に文書を入れられるようになり、
胎内文書を入れやすくなったのです。
ですから胎内文書も寄木造とともに普及し、増加したようです。
寄木造についてはいずれまた、詳しくお話ししますね。
お仏像の中の空洞
では、なぜお仏像の体の中に空洞があるのでしょうか。
それはこういうことです。
お仏像に無垢の材木が使われていると、とても重くなってしまいます。
また、使われる材木の乾燥が不十分だと、お仏像を安置した後でひび割れの原因にもなってしまいます。
ですから、お仏像を彫るときにはよく乾燥させてひび割れを防ぎ、
お仏像の中身をくりぬいて軽くすることが多くなったわけです。
また、空洞にしておくことでも割れにくくなる効果があったようです。
ということで、仏像の体の中に空洞があることがとても多くなりました。
とは言え、お仏像に必ず胎内文書が入っているとは限りません。
ただ、胎内文書はお仏像を修復した際に発見されることもとても多いです。
お仏像を修復するとき、一度お仏像を完全に解体することもあるからです。
ちなみにわたしたちは、ほとんどこの完全解体による修復を行っています。
もちろん、例えば国宝など、むやみに解体しないほうが良いお仏像もあります。
その場合、解体せずにお仏像の中を判定できる機械を使用して胎内文書を発見することもあるようですね。
お仏像を修復すると、昔の職人さんがどのようにしてそのお仏像を作ったのか、ということや、
現在までの何百年もの間に修復された形跡も見つけることができます。
それぞれの時期にそのお仏像に携わった職人さんの腕がうかがえるのです。
胎内文書の内容
次に胎内文書の内容についてお話しします。
内容はお仏像によりさまざまですし、中には開封しないほうが良いような、封印された文書を見つけることがあります。
わたしがお仏像修復に携わって見つけた胎内文書の内容は、
お寺のいわれや歴代のご住職のお名前、
そのお仏像が彫られたり、奉納されたときの時代背景などであることが多いです。
そして文書は、和紙に墨で書かれていることが多いです。
お仏像の胎内に保管されていたものなので保存状態が良く、
300年前の文字でも鮮明です。
文体は現在使用しているものと異なりますが、書かれている内容のおおよその見当がつきますので、
胎内文書を見つけたときは、タイムカプセルを開けるときと同じようなワクワクがあります。
お仏像の修復工程では、わたしたちはお仏像を一度完全に解体します。
ですから、解体したお仏像を再び組み直す必要があります。
このとき、いわば再びタイムカプセルを閉じることになります。
新しく奉納する
そういうこともあり、わたしの工房でお仏像を修復したときは、胎内文書を新しく奉納していただくことをおすすめしています。
お寺のご本尊様であるお仏像を修復した場合は、今回の事業に携わったご住職や檀家さんのお名前を記すことが多いです。
併せて、わたしたちのような、修復に携わった職人たちの名前を残すようにしています。
何十年か後、また子孫がお仏像の修復をするとき、胎内文書を発見し、わたしたちのことが知られることはうれしいのですが、
携わった側としては後々まで名前が残るだけに、責任重大というわけです。
このように、お仏像を修復したときは、新しい胎内文書と今まで眠っていた古い胎内文書を合わせて奉納することになります。
まるで、いにしえの檀家総代さんと現在の檀家総代さんが出会って、一緒に大きな偉業を成し遂げるようなロマンを感じます。
また、寺院のお仏像以外でも、最近多くなっている、自宅にあった古い仏像を修復する場合にも、
お仏像から胎内文書が出たという事例があります。
このときも、ご先祖様の書かれた胎内文書と、当代の方が一筆書かれた胎内文書の合わせて2通を、修復したお仏像の胎内に奉納します。
こちらもご先祖様と当代が出会われ、仲良く一緒に奉納する形になります。
そんなご自宅のお仏像もまた何百年か経った後、同じように修復されることになると思います。
そのとき、どんな思いでお仏像を修復し、どんな思いで未来の子孫に残したかったかという、
当代の方の気持ちを子孫が知ることになります。
ですから胎内文書は、
何百年ものときを越えて伝わる、壮大な気持ちが込められているものなのです。
というわけで
ということで胎内文書を奉納するということは、まるでタイムカプセルを埋めることと同じようなロマンがありそうですよね。
しかも、お仏像の修復というものは、一生に一度、あるかないかという貴重な体験なのです。
それでは、本日もお読みいただきまして
ありがとうございました。
また次回お目にかかりましょう。