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成田光俊

仏像の修復や販売の専門家

成田光俊(なりたみつとし) / 仏像修復

旭物産株式会社

コラム

胎内文書にまつわるお話

2021年10月26日

テーマ:仏像

コラムカテゴリ:冠婚葬祭

コラムキーワード: 仏壇仏具

今回は、前回お話しさせていただいた「胎内文書(たいないもんじょ)」にまつわる、たまたま最近あった事例をご紹介します。

内容はこちらです。


いわれなきお仏像


お寺にはいろいろなお仏像が置かれています。

いつごろ、どうしてそのお仏像を置くことになったのか、お寺にはそのいわれが伝わっていたりします。
通常はお寺が建立されたとき、そのお寺の宗派や建立の目的などの決まりに準じたお仏像が安置されます。
それが一般的です。

ですが、中にはご住職もいわれを知らないお仏像が置かれていることがあります。
お寺の長い歴史の中で、ほかのお寺や檀家さんなどから預かったものを安置することがあるのです。
そうした、特別な理由があって置かれたお仏像は、お寺が続くうちにご住職の代が替わり、もともとのいわれがわからなくなってしまうこともあり得るのです。

胎内文書の捜索


さて、そうしたいわれなきお仏像に興味を抱き、いわれを知る情報としてお仏像の中に文書、すなわち胎内文書が入っていないか探ってほしいと、ご住職がわたしたちのところにやってくることがあります。


ということで今回依頼を受けたお仏像は、大きさが30センチほどの阿弥陀如来様でした。

なるほど、ご住職がこのお仏像に胎内文書が入っているのではないかとお考えになったのもうなずけます。
と言うのも、そのお仏像はまるまる1本の木材から彫られたわけではなく、背中部分がパックリと外れるような、接着されたあとが見受けられるのです。

さらには想像をかき立てるように、
お仏像の背中部分には、このお仏像が何であるかや、どこのものかが書かれた木札が貼り付けてあり、そこがあたかも蓋のように見えたのです。

内部の確認


そこでまず、お医者さんが患者さんの胸を軽くたたいて音を聞いて診察するように、お仏像を軽くたたき、つまり打診して中の様子を耳で探りました。
すると、何だかお仏像の中に空洞があるような音がしました。
そして、修復がメインの目的ではないので、お仏像の内部を探るためだけの必要最低限な解体を試みました。


ところで、お仏像の中に空洞があるかないかなど、内部を確認する方法はお仏像の解体だけではありません。
文化財などを調査するため、レントゲンのようなものを使う方法や、小さな穴からファイバースコープを入れて画像で確認する方法などもあります。

さて、実際に解体してみてわかったのですが、お仏像には残念ながら文書どころか空洞も見つかりませんでした。

打診したとき、中が空洞のような音がしたのは、お仏像の接着されている部分の接着剤の効きが悪くなり、お仏像の腹側と背中側の接着部分が剥がれかけていて、そこにわずかなすき間ができていたためではないかと思います。

それはともかく、今回は残念ながらお仏像の中に胎内文書が入っていないことがわかりましたが、 お仏像のことを知りたいと思われたご住職のお気持ちは尊重したいものです。

あえて黒ずんだまま


話は変わりますが、以前わたしのところでご本尊様である阿弥陀如来様を修復されたあるお寺では、こんなことがありました。

その修復では、
お仏像を完全に解体して、作られたときと同様に金箔押しと彩色をするという方法は取りませんでした。
相談の結果、それまで安置されていた状態と同じく、お線香の煙などでいぶされて黒くなった雰囲気を残したままで、お仏像を修復するという方法を取りました。

本来ならば阿弥陀如来様は金色に輝き、わたしたちを極楽浄土に導いてくださるとされていますので、
お仏像が作られたときはきっと金箔が押され(金箔を貼ることを「押す」と言います)、金色に輝いていたことでしょう。
ところが何百年もたって、お線香の煙などでいぶされたり、金箔が剥がれたりして黒ずみ、そのお寺では「お参りしている阿弥陀如来様は黒い」ことに慣れ親しんでいたのです。
他のお寺でも多くあることです。

それで最終的に、今の雰囲気を優先する修復法を選択されたのです。

わたしたちは、お仏像の修復をするときはご住職や檀家総代さんと相談しながら、お仏像の雰囲気を彫られたときと同じようにリセットするのか、今見ている雰囲気を優先するのか
ということも慎重に決めていきます。
わたしとしては、ご住職や檀家総代さんのお気持ちを尊重したいと考えます。
どちらが正解、ということはないとわたしは思います。

そんなこともあり、この阿弥陀如来様は安置されていたときと、見た目は変わらないよう、無事に修復されました。
今も地域の方々を見守ってくださっていることでしょう。

大切な専門知識


さて、話を戻します。

そのお寺のお仏像を解体すると決まってから、ご住職にこっそり呼ばれました。
ご住職の話によると、どうやらお仏像に胎内文書か何か入っていないかを確認したくて、ご自身でお仏像の首を触ってみたことがあったそうです。
そしてそのときに傷をつけてしまったかもしれないので、そこを誰にも分らないようにこっそり直してほしいという主旨でした。

ちなみに、お仏像は普通にあちこち傷んでいるものなので、指が折れてなくなっていたり、台座の部品が欠けてなくなってしまっていたりなど、完璧な姿ではないことも多いものです。
そのつど、ご住職や地域の方々が直してくださったりもするので、お仏像に触ることはいけない、などということは、わたしはないと思っています。

ですが、お仏像を解体するにはそれなりの知識が必要です。
それに、お仏像の作り方に、たとえ誰にでもわかるある程度の規則性があるとしても、やはりお仏像作りの専門家である仏師さんしかわからないことが多いのです。
何か調べたいと思ったり、解体する必要ができたときは、
むやみやたらに首や腕などを引っ張ったりしないで、わたしのところまで電話してくださいね。

というわけで


というわけで、今日は胎内文書にまつわるお話をさせていただきました。
胎内文書には、
お寺のいわれや歴代のご住職のお名前、
そのお仏像が彫られたり、奉納されたときの時代背景などが記されていることが多いです。
一方、お寺に置かれたお仏像には、今ではいわれがわからなくなっているものもあります。
そんなときは、お仏像の胎内文書を確認してみることも、そのいわれを知る1つの手立てになります。
しかし、胎内文書はどのお仏像にも必ず入っているというものでもないのです。
また、胎内文書があるかないかの確認は、ぜひ専門家にお任せいただきたいと思っています。

それでは、本日もお読みいただきありがとうございました。
また次回お目にかかりましょう。

この記事を書いたプロ

成田光俊

仏像の修復や販売の専門家

成田光俊(旭物産株式会社)

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