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成田光俊

仏像の修復や販売の専門家

成田光俊(なりたみつとし) / 仏像修復

旭物産株式会社

コラム

お寺が廃寺になりそうというお話 後編 ~仏像の行方~

2022年8月12日

テーマ:仏像屋の思い

コラムカテゴリ:くらし

コラムキーワード: 仏壇仏具お墓

こんにちは。旭物産の成田です。

今日は前回に引き続き、わたしが住んでいる地域のお寺が廃寺になりそう、というお話です。
前回のコラムはこちらからご覧ください。


安置場所がなくなる


ご住職も檀家さんもいなくなったお寺の中には、ご本尊様をはじめ何体ものお仏像が安置されているところがあります。
もしそのお寺が廃寺になったら、お仏像はどうしたら良いのでしょう。

わたしは仏像屋としてお仏像を修復していますが、それは安置される場所がちゃんとあるという前提です。
ですから、安置する場所がなくなるかもしれないお仏像をどうするかは初めての事案です。

何百年も地域を見守ってくれていた、これらのお仏像たちはどうなるのでしょうか?
お仏像をどう処理するかについていくつか考えてみました。

引き取ってもらう



まず、お仏像をゆかりのあるお寺に引き取ってもらうという方法があります。
わたしが修復したことのあるお仏像の中にも、他のお寺からの預かりものだというお仏像がありました。
そのお寺の檀家総代さんから、それは以前親交のあったお寺から預かったお仏像だと聞きました。

余談ですが、家のお仏壇に安置されていたお仏像を旦那寺に預ける(引き取ってもらう)ということもあるそうです。
最近ですと、住宅を住み替えるときに大きなお仏壇を処分し、新しく小さなお仏壇に買い替える方もいます。
そのときに、新しいお仏壇に置くお仏像は小さいものを購入し、もともと安置されていた大きいお仏像を旦那寺に預けるということですね。

このように、お仏像の安置場所を他のお寺にお願いして確保してもらう場合、引き受けてくれるお寺を探す必要がありそうです。

売りに出す

次は、オークションなどで売りに出すという方法です。
試しにオークションサイトでお仏像を閲覧してみました。
そこには未使用のお仏像や、旧家から引き揚げたらしいお仏像がたくさん出品されていました。
未使用のお仏像というのは、お仏像メーカーが製造したものの、これまでどこでもお参りされたことのないだろうお仏像をそのまま出品しているのだと考えられます。
旧家から引き揚げられたお仏像は、例えば遺品整理や家の取り壊しで出てきたお仏像だと考えられます。

これも余談ですが、中には骨董品に似せた風合いに作られた、新品のお仏像もあったりしました。

ただ、そのオークションサイトにはお寺に安置されていたお仏像らしいものはほとんど見られませんでした。
もしかするとそのようなお仏像は、オークションサイトではなく美術品などのオークション会場で取り引きされるのかもしれません。
その辺の詳細はわたしは分かりません。

また、お寺に安置してあるお仏像を盗んで海外のマニアに向けて売る組織がある、
という物騒な噂を聞いたこともあります。
少し前に問題になったのですが、許せないですよね。盗んだお仏像で不法なお金儲けをしようなんて、代々大切にお参りしてきた檀家さんたちの心を踏みにじるような行為です。

もし、お仏像をオークションに出すとしたら、安心できる取り引きを目指したいものです。

お寺には、ご本尊様以外にもたくさんのお仏像が安置されていることがあります。
あるご住職に見せていただいたお仏像は、ご住職自らがオークションサイトで競り落としたとおっしゃっていました。
そのお仏像は、わたしのようなたくさんお仏像を見ている者からしても、でき映えが良く、大変カッコ良いお仏像でした。
ご住職が自慢げに見せてくださったのもうなずけるほどです。

ですから、性善説に立ったら、と表現しても良いのか分かりませんが、オークションサイトもあながち悪いものではないな、と思います。

焚き上げる


それから、焚き上げるという方法もあります。いわゆる焼却処分のことです。
お正月飾りやお札などを左義長(さぎちょう)で燃やすように、お仏像を燃やすわけです。そういうお焚き上げをしているお寺がありますし、最近はインターネットで調べればお焚き上げをしている業者さんも見つかるようです。

ちなみに左義長とは、全国で広く見られる風習で、1月14日の夜か1月15日の朝に、その年飾った門松や注連飾り(しめなわのこと)、書き初めで書いた物を田などに持ち寄って焼くことです。「どんと焼き」などとも呼ばれる風習です。

まだはっきりとは分かりませんが、わたしたちの場合、もしお焚き上げと決まったら、お仏像をその廃寺で燃やすことになるのでしょうか。

できるだけ残したい


さて、いずれのやり方にしてもお仏像を処分するということは、何だか寂しい気がしますね。

お仏像をぞんざいに扱うとバチが当たる、とまではいきませんが、
檀家や地域の人々に大切にされてきたお仏像は最期まで大切にしたほうがいいと思うのです。
実際、お仏像が人にバチを当てることはないと思いますが、ぞんざいに扱うことは、バチが当たるんじゃないかと思うくらい、はばかられることではあります。

一般的にお仏像は、お迎えしたときに魂を入れます。これはお性根を入れるとか開眼すると言われるものです。
ということは、お仏像を処分するときには反対に魂を抜く必要があります。
この儀式はお寺のご住職にお経を上げてもらうことで完了します。

とは言え、魂を抜く儀式をしたからといって、お仏像は元の木片に戻ったとはとうてい思えないのです。
それに、そのお仏像を彫った仏師さんなら、果たしてお仏像を処分してほしいかどうか、どう思われるでしょう。そんなことに想いを馳せたら、できるだけ残したい
とも思うのです。

お仏像の価値


お仏像にはどれだけの価値があるか、ということにもなるのでしょうか。
もちろん造形的に優れていたり、歴史的に古いお仏像であれば誰が見ても価値がある、と言うかもしれません。
ですが、どんなお仏像でも、そのお仏像にお参りをしてきた人々にとってはかけがえのない価値があると言えるでしょう。

それに今日まで何百年も人々にお参りされてきたお仏像には、人々の気持ちを引き受けてきた事実があります。
表現が正しいかどうかは分かりませんが、お仏像には人の念がこもっている、と感じます。

ということで結論として、私が住んでいる地域の廃寺になりそうなお寺のお仏像は、この先どうなるのか、です。ですが、
実は、まだ結論が出ていません。
仏像屋のわたしとしては、きちんと修復して後世に遺したいというのが本音ではありますが。

ただ、今管理している地元の人たちで少しでもわだかまりのないように進めていければ良いと思います。

それでは今日はこの辺で。また次回お会いしましょう。

この記事を書いたプロ

成田光俊

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