~ 士衛塾空手を通して、伝えたいこと 11 ~
士衛塾山梨の門下生に向けた、私からのメッセージを過去のニュースより転載します。
2020年 2月号 士衛塾山梨ニュースより
●自由と束縛●
珍しくこの年末年始は家に引きこもっていました。家の敷地外にほぼ出ていません。おかげでたくさんの本を読むことができました。引きこもるという実践(笑)の中で気づいたことがあります。鏡開きの「年頭のあいさつ」でも掲載しましたが、自由と束縛についてです。
今回は何日も自由に身体を休めることができました。この「身体を休める」という欲求は、とどまることを知らず、どんどんと動かない自分を作っていました。「本を読んでも疲れる」など自分が好きなことをしていても疲れるという状態でした。どれだけ自由で時間があっても欲求は満たされることはありませんでした。
普段忙しくしているから、たまの休みは「よく休めたなー」と実感します。例えはとても悪いのですが、例えば、普通は「息をする」ことに特別な思いはないはずです。しかし、首を絞められたとすれば、とても苦しいはずです。手をほどいてもらい自由に息ができたときは「息ができてよかった。空気ってうまい」などと思うと思います。まさに、束縛があるからこそ、自由が際立ちます。
また、「日日是好日」という映画と本を読みました。茶道の話です。「道」という共通項ですが、まさに空手道と一緒です。理屈ではなく形から入り、基本的な動作を習いつつ、お茶をたてる。空手だと、基本稽古を習いつつ、型をうつ。
茶道はただ作法に則りお茶を飲むだけでなく、その過程で、季節を感じ、周囲の音を聞き、水やお湯の音を聞き、これらの変化を感じることだそうです。空手でも全く一緒です。自分の身体と対話し、呼吸の音や関節や筋肉の動きを感じながら稽古する。
(以下本より引用)~お茶は、作法は厳格で自由はないに等しいけれど、それ以外は何の決まりも制約もない。学校では決められた制限時間内に、決められた「正解」を導き出す考え方を習う。早く正しい答えを出すほど優秀だと評価され、一定の時間を過ぎたり、異なる答えを出したり、その仕組みになじめない場合は低い評価をされる。しかし、お茶をわかるのに時間制限はない。3年で気づくも20年で気づくも本人の自由。気づく時がくれば気づく。成熟のスピードは人によって違う。その人の時を待っていた。理解の早い方が高い評価をされるということもなかった。理解が遅くて苦労する人には、その人なりの深さが生まれた。人を型にはめるがんじがらめの世界だと思っていたのに、実はすべて自由だった。個性を重んじる学校教育の中に、人を競争に追い立てる制約と不自由があり、厳格な約束事に縛られた窮屈な茶道の中に、個人のあるがままを受け入れる大きな自由がある。学校もお茶も目指しているのは人の成長だ。けれど一つ大きく違う。それは、学校はいつも「他人」と比べ、お茶は「きのうまでの自分」と比べることだった。~
日日是好日。天気の日も雨の日も、すべていい日。
試合に勝った日も負けた日も、練習が上手くいった日も行かなかった日も「気づき」があれば「すべていい日」。茶道は空手と全く一緒です。いくつになっても日々勉強と成長ができます。
●奥深い道●
上の話と繋がっていますが、空手の道は本当に奥深いものです。色帯では到底わかりません。黒帯になってやっと少しだけわかると思います。空手は、組手だけでなく、型だけでなく、本当にいろいろな勉強と気づきがあります。空手は「選手としての成長」だけでなくその先の「人としての成長」を目指しているからです。
宮本武蔵『五輪書』に「千日の稽古をもって鍛とし、万日の稽古をもって錬とす」という言葉があり、「鍛錬」の語源となっています。「鍛」は基礎が定着するということ、「錬」は一つの道として揺るぎなく完成すること。「鍛」には千日(約3年)を要し、「錬」には万日(約30年)を要するということで、継続的な努力・精進の大切さを説いた言葉です。極真空手の創始者の大山倍達氏も「千日をもって初心とし、万日をもって極みとする」とあります。
「初心」というと「初心忘るべからず」が有名ですか、室町時代に能を大成させた世阿弥が語った言葉です。初心とはその時々の初心を指します。人生のどの段階でも未熟さを持っています。その未熟さを思い出し稽古することです。空手でいうと基本稽古です。完璧な基本稽古を行えることはそういません。私も未熟ですから、必ず基本に立ち返り、自分自身と対話し稽古をします。千日(千回の稽古)をもって、やっと初心(基本)ができます。それが黒帯(初段)だと思います。その初心を忘れずに稽古に励み続け万日(約30年)で鍛錬となる。
空手歴が長いことを自慢している人を知っていますが、ただ長いだけではだめです。その間に稽古をしている期間がどれだけあるかです。
「千回の稽古」は週一回の人では19年かかります。週2回で10年です。稽古の中で、諦めずに続けることの大切さを学ぶはずです。千回の稽古量は相当なものだと思います。どのくらいの量かというと、今年の鏡開きで出席回数の多さで表彰した「心技体鍛錬賞」。出席簿をつけ始めた2019年3月から12月までの10カ月間の1位の金丸優奈は222回で約5年です。300回の私で3年ちょっと。500回という最高回数の伊藤帆南は2年です。