「少し臭う」は普通?犬・猫の口臭で気づきたいお口の変化
愛犬・愛猫の歯に、黄色や茶色の硬い汚れが付いている。
このようなとき、
「毎日歯みがきをすれば、そのうち取れる?」
「爪や器具で少しずつ剥がしても大丈夫?」
「麻酔を使わない歯石除去なら負担が少ないのでは?」
と考える飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
歯みがきで除去できるのは、基本的に石灰化する前の軟らかい「歯垢」です。
すでに硬くなった「歯石」を、歯ブラシだけで取り除くことはできません。
また、家庭でスケーラーなどの器具を使って歯石を剥がそうとすると、歯ぐきや歯を傷つけるだけでなく、見えない歯周病を残したまま、表面だけきれいに見せてしまう危険があります。
今回は、歯垢と歯石の違い、家庭でできるケア、家庭で行わないほうがよい処置、日本における歯石除去の法的な考え方についてご紹介します。
結論:歯みがきは「歯石を取るもの」ではなく「歯石を作りにくくするもの」です
毎日の歯みがきには、歯の表面に付着した軟らかい歯垢を物理的に取り除き、歯肉炎や歯周病の発生・進行を抑える役割があります。
一方、歯垢が唾液中のミネラルによって石灰化し、硬い歯石になると、通常の歯ブラシでは除去できません。
つまり、家庭での歯みがきの主な目的は、
- 今付いている軟らかい歯垢を取り除く
- 新しい歯石が作られるのを抑える
- 動物病院で歯石除去を受けた後の状態を維持する
- 歯や歯ぐきの変化に早く気づく
ということです。
すでに付着している歯石を、歯みがきで少しずつ溶かしたり、剥がしたりすることはできません。
歯垢と歯石は同じものではありません
歯垢は、細菌を含む軟らかい膜です
歯垢は、歯の表面に付着する細菌を中心とした粘着性のある膜です。「プラーク」や「細菌性バイオフィルム」とも呼ばれます。
食べかすだけではなく、細菌や唾液中の成分などが集まって形成されます。
歯垢は軟らかいため、適切な歯ブラシやガーゼなどで物理的にこすれば除去できます。
2025年に発表された犬猫の歯垢管理に関する獣医学レビューでも、歯周病の予防や進行抑制には、歯垢をできるだけ頻繁に物理的に壊すことが重要であり、家庭での毎日の歯みがきが基本とされています。
歯石は、歯垢が石灰化して硬くなったものです
除去されずに残った歯垢へ、唾液中のカルシウムやリンなどのミネラルが沈着すると、硬い歯石になります。
歯石は歯の表面へ強く付着するため、歯ブラシやガーゼでは除去できません。
歯周病を引き起こす中心的な存在は、歯石そのものよりも、歯垢の中に存在する細菌と、それに対する歯ぐきの炎症反応です。
しかし、歯石の表面は粗く、さらに歯垢が付着しやすい環境を作ります。そのため、歯石を放置すると、その表面に新しい歯垢がたまり続けることがあります。
歯みがきで歯石が取れたように見えることがあるのはなぜ?
歯みがきを始めた後に、
「茶色い汚れが少し薄くなった」
「歯石が取れたように見える」
と感じることがあります。
これは、歯石の表面に付着していた軟らかい歯垢や食べ物の色素、汚れが落ちた可能性があります。
また、硬い歯石の一部が偶然欠けることもありますが、歯ぐきの下や歯と歯の間には歯石が残っている可能性があります。
見える部分が白くなったからといって、歯周病が改善したとは限りません。
家庭でできること
毎日の歯みがきで歯垢を除去する
家庭でできる最も基本的なケアは、石灰化する前の歯垢を歯ブラシで除去することです。
- ペットの口に合った小さめの歯ブラシを選ぶ
- 歯ブラシは軽くペンを持つように握る
- 歯と歯ぐきの境目へ毛先を優しく当てる
- 大きくゴシゴシ動かさず、小刻みに動かす
- まずは磨きやすい歯の外側から始める
- 嫌がる前に短時間で終える
- 可能であれば毎日続ける
ただし、歯ぐきが赤い、腫れている、出血する、口を触ると痛がる場合は、先に動物病院へ相談してください。
炎症のある歯ぐきを無理に磨くと痛みが生じ、歯みがきそのものを嫌がる原因になります。
歯と歯ぐきの変化を観察する
歯みがきは、歯垢を除去するだけでなく、お口の変化を確認する機会にもなります。
- 歯ぐきが赤くなっていないか
- 腫れや出血がないか
- 歯石の範囲が広がっていないか
- 歯が欠けたり変色したりしていないか
- 歯がぐらついていないか
- 口臭が以前より強くなっていないか
- よだれや食べ方に変化がないか
口を触られることを強く嫌がる場合は、無理に確認しないでください。痛みがある動物は、普段おとなしい子でも突然噛むことがあります。
効果を確認された補助用品を活用する
歯みがきが難しい場合は、デンタルガム、デンタルフード、歯みがきシートなどを補助的に利用する方法があります。
製品を選ぶ際は、VOHC(米国獣医口腔衛生協議会)の認定など、歯垢または歯石の蓄積抑制について一定の評価を受けた製品も参考になります。
ただし、「歯石の蓄積を抑える」ことと、「すでに付着した歯石を除去する」ことは別です。
デンタル用品を使用しても、硬くなった歯石が家庭で安全に取れるわけではありません。
家庭でできないこと
硬く付着した歯石を歯ブラシで取る
歯ブラシが得意なのは、軟らかい歯垢を除去することです。
硬く石灰化した歯石へ強く歯ブラシを押し当てても、歯石は取れません。歯ぐきを傷つけたり、歯みがきを嫌がる原因になったりします。
歯ぐきの下にある歯周病を家庭で評価する
犬や猫の歯周病は、外から見える歯の表面だけで進むものではありません。
歯ぐきの下には、
- 歯周ポケット
- 歯根の周囲に付着した歯石
- 歯槽骨の減少
- 歯根の感染
- 折れた歯根
- 猫の歯牙吸収病
などが隠れていることがあります。
これらを正確に確認するには、歯周プローブによる検査や歯科用レントゲン検査などが必要です。
家庭で見える歯石の量と、歯ぐきの下で進んでいる病気の重さは、必ずしも一致しません。
歯周病を歯石だけ剥がして治す
歯周病は、表面の歯石を剥がすだけでは治療できません。
必要に応じて、歯ぐきの下の洗浄や歯石除去、歯面の研磨、歯科用レントゲン検査、保存が難しい歯の抜歯などが検討されます。
どの処置が必要かは、獣医師がお口全体を評価したうえで判断します。
家庭で歯石を無理に剥がす危険性
インターネットでは、家庭用のスケーラーやペンチのような器具を使い、歯石を剥がす方法が紹介されていることがあります。
しかし、犬や猫が動く状態で鋭い器具を口の中へ入れることには、次のような危険があります。
- 歯ぐきや舌、頬の内側を傷つける
- 出血や感染を起こす
- 動物が急に動き、器具が深く刺さる
- 痛みや恐怖から飼い主様を噛む
- 歯の表面を傷つける
- 歯を折ったり、ぐらつかせたりする
- 見える部分だけがきれいになり、病気を見逃す
- 歯みがきや口元を触られること自体を嫌がるようになる
歯石除去後は、器具によって生じた歯面の細かな傷を滑らかにする研磨も必要です。
表面を削ったまま研磨しないと、粗くなった歯面へ歯垢が再付着しやすくなる可能性があります。
「見える歯石だけを取る処置」では不十分です
犬や猫の歯周病で重要なのは、歯ぐきより上に見えている歯石だけではありません。
本当に確認・処置する必要があるのは、歯ぐきの下に隠れた部分です。
AAHA(アメリカ動物病院協会)の犬猫歯科診療ガイドラインでは、無麻酔で見える歯石だけを取る処置は美容的な処置にとどまり、口腔や全身の健康を改善するものではないとしています。
また、痛み、恐怖、出血、感染を起こす可能性も指摘されています。
適切な歯科処置では、全身状態と麻酔リスクを事前に評価したうえで、一般的に全身麻酔下で次のような処置を行います。
- 口腔内全体の詳しい検査
- 歯周ポケットの測定
- 必要に応じた歯科用レントゲン撮影
- 歯ぐきより上と下の歯垢・歯石除去
- 歯面の研磨
- 必要な歯の治療や抜歯
- 処置後のホームケア計画
高齢であることだけを理由に麻酔ができないと決まるわけではありません。年齢、持病、血液検査などをもとに、処置の必要性と麻酔リスクを個別に検討します。
不安がある場合は、「無麻酔で取れる場所だけ取る」のではなく、かかりつけの獣医師へ相談しましょう。
日本における歯石除去の法的な考え方
2026年10月時点で、獣医師法第17条は、獣医師でなければ犬や猫などの飼育動物の診療を「業務として」行ってはならないと定めています。
農林水産省の「小動物獣医療等に関するよくある質問」では、スケーラーを用いる歯石除去について、次のように整理されています。
- 歯石は歯みがきでは取り除けないため、獣医師へ相談する
- スケーラーを用いる歯石除去は、獣医師の獣医学的判断と技術をもって行う診療行為である
- ブラシやガーゼなどで歯垢を除去する歯みがきは、一般的には診療行為ではない
- 口腔内に傷などがある場合は、歯みがきについても獣医師へ相談する
したがって、トリミングサロンや訪問サービスなど、動物病院ではない場所で、獣医師ではない第三者へスケーラーによる歯石除去を依頼することは避けてください。
有料か無料かだけで決まるものではなく、他人の求めに応じて反復継続して診療行為を行う場合は、獣医師法へ抵触する可能性があります。具体的な法的評価は、実施方法や業務の実態に応じて個別に判断されます。
獣医師法第17条は「業務として」診療することを制限する規定であるため、飼い主様本人が自分のペットへ行う行為を同条が一律に禁止する構造ではありません。
しかし、それは家庭でのスケーラー使用が医学的に安全であるという意味ではありません。
飼い主様自身が行う場合であっても、硬い歯石を器具で剥がすことは避け、歯石が気になったら動物病院へ相談してください。
また、国家資格を持つ愛玩動物看護師の業務には、獣医師の指示のもとで行う診療の補助がありますが、飼い主様が院外サービスの資格名だけで判断するのは困難です。
歯石除去を検討するときは、まず動物病院で獣医師の診察を受け、誰が、どのような体制で、どこまで処置するのかを確認しましょう。
早めに動物病院へ相談したいサイン
次のような変化がある場合は、歯石の量にかかわらず動物病院へ相談しましょう。
- 歯ぐきが赤い、腫れている
- 歯みがきや食事の際に出血する
- 口臭が以前より強くなった
- よだれが増えた、よだれに血が混じる
- 歯がぐらついている
- 歯が欠けている、変色している
- 硬いフードやおやつを避ける
- 片側だけで噛む
- 食べ物を口から落とす
- 口元を前足で気にする
- 顔やあごが腫れている
- 歯みがきを急に嫌がるようになった
犬や猫は、口に痛みがあっても食べ続けることがあります。
食欲があるから大丈夫と判断せず、食べ方や口元の変化にも注意してください。
歯石除去後こそ、毎日の歯みがきが大切です
動物病院で歯石を除去しても、歯垢の付着は再び始まります。
そのため、歯石除去は「一度行えば終わり」ではありません。
歯科処置後に獣医師から再開の許可が出たら、家庭での歯みがきを少しずつ始めましょう。
- 最初は口元へ触れるだけにする
- 次に歯ブラシを見せたり、においを嗅がせたりする
- 磨きやすい歯を数本だけ磨く
- 嫌がる前に終了する
- 慣れてきたら磨く範囲を少しずつ広げる
- できるだけ毎日の習慣にする
歯科処置で一度お口をきれいにし、毎日の歯垢除去でその状態を維持することが、歯石の再付着や歯周病の進行を抑える基本です。
オーラルケア用品開発者からのメッセージ
歯石を見つけると、「もっと強く磨けば取れるのでは」「目立つ部分だけでも剥がしたい」と考えることがあるかもしれません。
しかし、歯ブラシと専門的な歯科処置には、それぞれ異なる役割があります。
歯ブラシの役割は、硬い歯石を削り取ることではありません。
毎日付着する軟らかい歯垢を取り除き、歯石や歯周病をできるだけ作らせないことです。
すでに歯石が付着している場合は、家庭で無理に剥がそうとせず、まず動物病院で歯ぐきの下まで含めた状態を確認してもらいましょう。
そして必要な処置を受けた後に、その子に合った歯ブラシと無理のない方法で、毎日のケアを続けることが大切です。
まとめ・ポイント
- 歯垢は細菌を含む軟らかい膜で、歯ブラシやガーゼなどで除去できます。
- 歯石は歯垢が石灰化して硬くなったもので、歯みがきでは除去できません。
- 毎日の歯みがきは、歯石を取るためではなく、歯垢を除去して歯石の形成を抑えるために行います。
- 家庭でスケーラーなどを使うと、歯ぐきや歯の損傷、出血、感染、強い恐怖につながる危険があります。
- 見える歯石だけを除去しても、歯ぐきの下の歯周病は診断・治療できません。
- 日本では、スケーラーによる歯石除去は獣医学的判断と技術を必要とする診療行為とされています。
- 飼い主様以外の第三者による歯石除去サービスではなく、まず動物病院へ相談してください。
- 飼い主様本人が行う場合も、安全が保証されるわけではないため、家庭で歯石を剥がすことは避けましょう。
- 動物病院での歯科処置後も、毎日の歯みがきによる歯垢管理を続けることが大切です。
参考情報
農林水産省
「小動物獣医療等に関するよくある質問」
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/FAQ.html
e-Gov法令検索
「獣医師法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000186
FelineVMA
「2025 FelineVMA feline oral health and dental care guidelines」
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12665832/
AAHA
「2019 AAHA Dental Care Guidelines for Dogs and Cats」
https://www.aaha.org/wp-content/uploads/globalassets/02-guidelines/dental/aaha_dental_guidelines.pdf
Nemec A.
「Dental plaque prevention and control in dogs and cats: current and emerging concepts」
https://www.slovetres.si/index.php/SVR/article/view/2175
WSAVA
「Global Dental Guidelines」
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/Dental-Guidleines-for-endorsement_0.pdf
Veterinary Oral Health Council
https://vohc.org/


