「自殺予防週間」に寄せて ~ ストレスをありがたく ~
大きな災害が生じるたびに心のケアの必要性が求められ,特徴的な心(精神)の反応も紹介されるようになります。
精神の疾病であるPTSDという言葉をご存じの方も多いと思います。
PTSD Post Traumatic Stress Disorder
ポストトラウマティックストレスディスオーダー。
トラウマ的なストレスを受けた後に心身の秩序が乱れてしまう疾病です。
診断基準は,ネットですぐに得られますのでご関心のある方は検索してみてください。
トラウマ的なストレスを生じさせる出来事のひとつが災害です。
他には,事件や事故,いじめや暴力,それから戦争。そして大切な人を失った時。
つまり,生命に関わるような出来事がトラウマティックストレスを生じさせるのです。
ストレスには良いストレス(ユーストレス)と悪いストレス(ディストレス)がありますが,トラウマティックストレスは悪いストレスと言って良いかもしれません。
トラウマとは,もともとギリシア語の「損傷」という意味で,精神的な問題に使われるようになったのは19世紀にブロイアーという精神科医によってです。
ブロイアーは,女性に多く見られた疾患であったためヒステリーという心身の症状の原因は,過去の心的外傷(トラウマ)であると考えました。
その後,よく知られているフロイトと,あまり知られていないジャネという精神科医によってトラウマの心理的なはたらきが研究されました。
しかし,フェミニズム運動により,ヒステリー研究はいったん衰退していったそうです
20世紀,再びトラウマが注目されるようになりました。
戦争です。
第一次世界大戦から帰還した男性兵士がヒステリーと同じ症状を引き起こしたそうです。
その症状は戦争トラウマ神経症と呼ばれるようになりました。
第二次大戦,ベトナム戦争でも帰還した兵士の多くが戦争トラウマ神経症を発症し,アメリカではそうした兵士への心理支援プログラムがつくられるようになりました。
そして,1980年にアメリカで「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」という診断名がつくられたのです。
私たちは,男女かかわりなく生命に関わるトラウマティックな出来事に遭遇すると特徴的なストレス反応を起こします。
眠れなかったり,不意に思い出してしまい辛くなったり,いつもできていたことができなくなってしまったり,自分を責めたり否定したり・・・。
先ほど,トラウマティックストレスは悪いストレスだと書きました。
しかし,悪いストレスだからといってストレス反応が悪いものであるという意味ではありません。
こうしたストレス反応をなくさなければならないというわけではありません。
「異常事態に対する正常な反応」と言われますが,危機状態から自分自身を守るために心身が反応しているのです。
自分を守ろうとする心は健康的であるとも言えるのです。
心理カウンセリングや心理療法での支援や治療では,その健康的な側面を見極め,しっかり支持し,望ましく発揮できるように応援していくという視点が不可欠です。
トラウマティックストレス反応を悪者にして,単になくそうとするだけの支援や治療は,潜在的な健康さを奪うことにもなりかねません。
今,強いストレス反応でお悩みの方にこそ,知っていただきたい私たちの思いです。
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