「自分史」を書き換えることによって自分を変える
心の悩みを持ったときに、皆さんはどうするでしょうか。
ここでは、「人は心の悩みをどう解決するか」について考えてみたいと思います。
心の悩みは誰でも持ちます。 しかし大抵の場合、それは長続きせず、いつの間にかなくなり
ます。 それは、その人が何らかの方法で自分で解決策を見つけているからです。
ちなみに、カウンセリング心理学の歴史はせいぜい百年位で、職業的な心理カウンセリング
が確立したのはわずか半世紀前です。
言い換えれば、それまでは誰でも心の悩みについて、いわゆる「専門家」の手を借りずに
自ら対処していたわけです。 もちろん、今でも大部分の人は、心理カウンセラーの手を借
りずに何らかの方法で自ら心の悩みを解決していると思います。
それは、人は大なり小なり解決への「個人的・社会的資源」を持っているからです。 この
解決への「個人的・社会的資源」は、生まれてからの色々な人生経験の中でつちかわれた
ものです(その人の人生経験の多少によって、持ち駒の「資源」の量には差はあるでしょう
が)。
つまり、何か困難な場面に出会った時に、過去に同じような場面で自分はどう対処したか
を自分で振り返り、うまくいった方法をまた使ってみる、ということです(過去に学習した
成功体験を応用してみる)。
「個人的資源」には自分自身の個人的経験に限らず、自ら本やテレビで得た知識も入れて
いいでしょう。 特に最近は、インターネットによりどのような知識も手軽に手に入るように
なり、情報そのものには不自由しないといえます。
次に、自分自身で問題解決できなかった場合、周りの人に助けを求めることがあります。
家族や親しい友達、職場の同僚や上司などがその資源としてあります。 また、お坊さんに
教えを求める人もいるでしょう。 これらはいわゆる「社会的資源」(ネットワーク)といわれ
るものです。
このような「個人的資源」や手持ちの「社会的資源」により心理的な問題解決ができない
場合に初めて、心理専門家の援助を求める、ということになるでしょう。
まとめれば、人類の歴史からみて、人は心の悩みについて基本的には自ら対処してきたし、
またその解決のすべを持っていた、といえます。 もしそうでなければ、人類はとっくに絶滅
していたでしょう。 言い換えれば、人はいわゆる「自己治癒力」といったものを持っている
と考えられます。
ただし、その「自己治癒力」の程度には個人差があるようです。それは生まれつきの差も
あるでしょうし、また生まれてからの人生経験の差(学習の量の差)もあるでしょう。
そこに初めて、心理専門家の援助を求める必要性や意味が起きてくるといえます。 特に
ものごとが専門化してきた中で、心理援助も専門化し、職業化してきたといえます。
ちなみに、カウンセリング心理学が最も発達しているのは米国といえますが(私がカウン
セリング心理学の博士号を取得するために米国の大学院に留学したのもその為です)、
わたしはこのことは必ずしも良いことばかりではないと思います。 というのは、それだけ
カウンセリングの必要性・需要があるということだからです。
一方、日本はカウンセリング心理学はそれほど進んでいないといえます(現在はあちこちの
大学でこの分野が設立されてきてはいますが)。
ちなみに、現在、心理技法は全部で400位あるといわれていますが、そのうち日本独自のもので
国際的に認められているものはわずか二つ(内観療法と森田療法)だけで、大部分が米国で
生まれたものです。
しかし、このことは必ずしも悪いとはいえないといえます。 というのは、日本は今までカウン
セリング心理学が発達しなかったのは、それだけ必要性・需要がなかったからともいえるからです。
言い換えれば、「個人的資源」や既存の「社会的資源」がうまく機能していたからともいえるから
です。
心理専門家が生まれ必要とされる背景には、世の中が複雑になり、また社会のつながりが
希薄になったことが影響しているのかもしれません。
いずれにせよ、自力で心理的な問題を解決できない場合に専門家の援助を受けるというのは、
選択肢として十分考慮する必要のあることと考えます。
次回は、では実際に心理カウンセリングを利用する場合にどのような流れでいくか、について
お話ししたいと思います。
うつ心理相談センター所長
心理学博士(PhD University of Denver USA)
村田 晃