「希望を持つ」ことの心理学的意味について
2月16日に富山県中部厚生センター主催の研修会で、うつについての講演をしましたので、
その要旨を参考にしていただけたら、と思います。
村田 晃(心理学博士 PhD University of Denver USA)
5.うつの対処法
前回はうつの予防法について述べましたが、うつになる原因のうちには、自分の力だけでは対応できない
ものがあります(失業などの環境要因や、脳の化学物質[神経伝達物質]の障害などの身体要因等)。
その場合は、早期発見と早期治療に努めることが大事です。
○ 簡単な早期発見の方法:
「おっくうさ」 がずっと持続する(目安は2週間以上)ようであればうつを疑い、医療機関を受診するようにする。
うつはかぜのようにだれでもなりうる (心のかぜ) と考え、専門医療機関(精神科・心療内科等)にかかることをためらわないことが大事です。
○ うつになったら:
うつに対する最も良い対処法は、実証的な研究の結果、薬物療法と心理療法 (カウンセリング) の組み合わせといわれています。
その他に、周囲 (家族や職場など) の理解・援助も重要な要因です。
広くは、社会全体の、うつ、引いては心の病気一般、に対する理解が重要といえます。
また、一旦うつになったら、うつを殊更に否定的に捉えずに、逆に、「うつに意味を見い出し、自分の人生における転機・好機
と考える」 という前向きの姿勢が良いと思います。言ってみれば、「うつを生かす」、という考え方です。
実際、進化論の立場からうつを研究する精神医学者・心理学者は、うつは自然が人間に与えた生存のための一方法
と考えています。
その根拠は、うつが人の歴史において古くから記録され、しかも今も人種を問わず高い出現率を保っている、ということです。
つまり、進化論の適者生存の見方からすれば、うつはその存在に意味がある、つまり人間の生存に役立つ面がある、
と考えられるということです。
もっと具体的に言えば、
(1) うつは、その人の目指す目標が非常に危険な場合に、行動にブレーキを掛ける役割をする。
(2) うつは、人が強いストレスの下にある場合に、一時的に自らを外部の社会から遮断してエネルギーを保存する働きをする。
からです。
ちなみに、進化論の生みの親であるチャールズ・ダーウィン自身うつになり、だからこそ外部の社会的事柄に惑わされずに
あの有名な「種の起源」の著作に集中できた、と指摘する研究者がいます。
◎ 以上、結論として私が強調したいのは、うつは人の生存につながるプラスの意味があるということです。
ですから、うつになってもそれを単に回避しようとしたり忌み嫌うのではなく、それを直視し、自分の人生に置ける転機・好機と
捉える前向きの姿勢が必要ではないか、ということです。
これは何も精神力があればうつを克服できると言っているのではありません。適切な投薬等の医療的措置や
心理カウンセリングの重要性はもちろんです。
私が言っているのは、「せっかく」 うつになったのだったら、うつを単に否定的に捉えるのではなく、肯定的に捉えた方が
意味があるのではないか、ということです。
つまり、今自分がうつになったことに 「意味・意義」 を見出し、それを転機にして今後の自分の人生に役立てる、という
考え方・姿勢が重要ではないか、それこそ 「うつを生かす」 ことになるのではないか、ということです。(終)