「ドンマイ」よりも「ナイストライ!」
企業といえども人間の集団ですから、明るく元気に満ちた職場の方が、暗く湿っぽい職場よりも生産性が高まることは目に見えています。
しかし、管理職がこれといった根拠もなく「キミなら大丈夫」「やれば出来る」といった精神論だけで、ひたすら明るく部下を教育・指導するのは、道路標識を見ずに車を走らせるようなものです。
安きに流れてはいませんか?
私は仕事柄、多くの企業の現場に伺う機会がありますが、場当たり的な考え方や言動を見聞きすることがよくあります。例えば、管理職研修などで『問題解決』がテーマである際、「職場の問題点を挙げてください」という問いに対して「人手不足」と答える受講生があまりにも多いのです。
もし、「人手不足」が問題点ならば、その解決の方向性は「人手を新たに採用する」になりますが、本当にそれで良いでしょうか?人件費が増えたり、先輩社員が新人の育成に時間を取られたり、新たな問題を引き起こすことにはならないでしょうか?
実は、問題点とは“困った状態”のことであり、「ミスが多発している」といった表現になります。「人手不足」とは、「ミスが多発している」という問題点の原因候補の1つに過ぎないのです。
原因としては他にも「業務が標準化されていない」「社員教育が徹底されていない」「漫然と仕事に取り組む風土がある」など、いろいろと考えられます。
管理職(上司、リーダー)は、こうした原因候補から自分の職場の問題点に当てはまる原因を選択し、それに応じた解決の方向性および解決策を導いていく必要があり、それなりに頭を使いますし労力もかかります。
「人手不足」が問題点として挙がりやすいのは、そう考えて人事部に「何とか採用してくれ」と言う方が楽だからです。複数の原因を考えるようなキツイ思いをしなくて済むからです。人間は(私もそうですが)、無意識のうちに“安きに流れる生きもの”なのです。
ですから、意識していないと、マネジメントを誤った安易な方向に導いてしまう危険性が潜んでいるのです。
「責任は私が取る」という言葉がけの正体
前編で出てきた「責任は私が取る」という表現は、一見カッコよく、また管理職として理想の姿勢に基づいた言葉のように思われがちです。しかし、本当にそうでしょうか?
部下が上司から「責任は私が取るから思い切りやれ」と言われたい気持ちも分かります。しかし、それは新人からせいぜい3年目くらいの時期の話であり、仕事のレベルや状況に応じて異なるとは思いますが、総じて中堅社員がいつまでも精神的に独り立ちできないようでは困ります。
また、上司も“ここぞ!”というときに「責任」という言葉を意識的に使うのは構わないと思いますが、それが部下の独り立ちを妨げるケースがあることを認識しておく必要があるのです。
部下のやる気を引き出す言葉がけであるペップトークは、単に明るい言葉や口調を選んだり、勢いのある表現で鼓舞するようなものではありません。
本当に相手の心に響き、部下が成果に向けて具体的に一歩を踏み出せるようにするためには、上司としてはどういったスタンスで、どのように考えて言葉を発すれば良いのか・・・次回(後編)で解説します。
ワンフレーズで部下のやる気を引き出すペップトーク(前編)
ワンフレーズで部下のやる気を引き出すペップトーク(後編)