相続の基本(1)相続対策と相続税対策
「相続対策は、お金持ちや高齢者だけのもの」——そんなふうに考えていませんか?
相続という言葉を聞くと、相続税対策や遺産分割トラブルの回避といったイメージが浮かびがちですが、本来の目的はもっとシンプルです。
それは「遺された家族が困らないように準備しておくこと」。
この考え方に立てば、財産の額や年齢に関係なく、誰にとっても相続対策は必要だと分かります。
本記事では、相続対策の基本的な考え方から、具体的な方法までを4つの視点からご紹介します。
相続対策とは何か?
相続対策というと、「遺言を書いておく」「生前贈与をしておく」といった手段が思い浮かぶかもしれません。
確かにこれらは有効な手段ですが、それ自体が目的ではありません。
相続対策の本質は、「相続が発生した後に、遺族が困らないように備えること」。
そのためには、自分の死後にどのような問題が起こり得るかを想像し、その心配ごとをできるだけ減らしておくことが重要です。
この観点に立てば、相続対策は「資産の多い人」「高齢者」だけでなく、すべての人に関係があるといえるのです。
相続対策で検討すべき4つの視点
相続対策には「遺産分割対策」「納税資金対策」「節税対策」という三本柱がありますが、ここでは少し違った切り口で、次の4つの視点から整理してみましょう。
- 遺された家族の生活資金の確保
- 相続手続きをスムーズに行うための準備
- 相続人同士のトラブル防止
- 相続税に備える対策
それぞれについて、具体的に見ていきましょう。
1. 家族の生活を守るための対策
家計を支えていた人が亡くなると、預金口座が凍結され、急に生活費に困るケースもあります。
特に、家族の生活が被相続人の収入に依存していた場合は、対策が欠かせません。
対策の例
・ 生前贈与の活用
暦年贈与(年間110万円まで非課税)を活用して、事前に財産を分散しておく。
贈与契約書の作成や、名義預金とみなされないよう注意が必要です。
・ 生命保険の活用
死亡保険金は受取人固有の財産とされ、速やかに支払われるため、生活資金として有効です。
2. 相続手続きを円滑に進めるための対策
相続が発生すると、名義変更や契約の解約など、さまざまな手続きが必要になります。
財産の全容が不明だと、家族の負担が大きくなりがちです。
対策の例
・ 財産の整理
複数ある銀行口座の整理や不要なクレジットカードの解約など。
・ エンディングノートの作成
財産目録や契約先、連絡先などを明記しておけば、家族が手続きをスムーズに進められます。
信託銀行が提供する「遺言信託」も選択肢の一つですが、費用対効果や遺言執行者の指定によって柔軟性が失われる点には注意が必要です。
3. 相続人同士のもめごとを防ぐための対策
「うちは仲がいいから大丈夫」と思っていても、相続をきっかけにトラブルになることは珍しくありません。
特に、不動産など分割しにくい財産がある場合には注意が必要です。
対策の例
・ 遺言書の作成
法的に有効な形で遺言書を残すことで、相続人の間での争いを防げます。
専門家のアドバイスを受けながら、公正証書遺言など確実性の高い方法を検討しましょう。
・ 資産の組み替え
不動産を一部売却して金融資産を増やすなど、分けやすい形に整えておくのも効果的です。
4. 相続税に備えるための対策
相続税は相続発生から10か月以内に納税する必要があります。
特に納税資金が不安な場合は、事前に準備が欠かせません。
対策の例
・ 生前贈与の活用
財産額を減らすことで、課税対象を小さくできます。
・ 相続税の特例を活用
「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」などの制度を利用して、課税対象を圧縮する。
・ 収益物件の活用
賃貸不動産の取得で評価額を下げる方法もありますが、リスクや分割の難しさもあるため、慎重に検討を。
金融資産を増やすという観点では、不動産や高価な持ち物を売却するという方法もあります。
納税だけでなく、遺産分割や手続きの簡略化にもつながります。
相続対策で押さえておきたい3つのポイント
相続対策を行ううえで、以下の3つのポイントを意識しておきましょう。
・ 生前の生活費はしっかり確保すること
生前贈与などを行う際には、自分や配偶者の生活資金が不足しないよう注意が必要です。
・ 早めの準備を心がけること
相続はいつ起こるかわかりません。思い立ったときが始めどきです。
・ 専門家に相談すること
法律や税制の知識が必要な分野も多くあります。
信頼できる専門家に相談することで、より実効性の高い対策ができます。
相続対策は「自分ごと」として今から始めよう
相続対策は、特別なお金持ちのための話ではありません。
財産が多くなくても、相続に関する手続きや感情的なトラブル、生活資金の確保など、悩みや課題は多岐にわたります。
「自分には関係ない」と思わずに、早めに考え、必要に応じて専門家の手を借りながら、家族のためにできる準備を少しずつ進めていきましょう。
備えあれば憂いなし——それが相続対策の一番の意義といえるのではないでしょうか。



