相続対策の基本(6) 相続財産としての不動産の評価(2)
相続税対策を考える理由は、自分の財産をできる限り多く家族に残すためです。
相続税の負担を軽減するためには、早めの準備と正しい知識が必要不可欠です。
本記事では、相続税対策の代表的な方法を5つの切り口でご紹介します。
1. 生命保険の非課税枠を活用する
生命保険は、相続税対策の代表的な手法のひとつです。
死亡保険金は原則として相続財産に含まれますが、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が適用されます。
たとえば、法定相続人が妻と子2人の場合、500万円×3人=1,500万円までは相続税がかかりません。
この制度をうまく使えば、まとまったお金を非課税で家族に渡すことができ、納税資金の準備にも役立ちます。
保険の種類や契約の仕方によって取り扱いが異なるため、活用する際は専門家と相談のうえ設計するのが望ましいでしょう。
2. 生前贈与で財産を前もって渡す
生前贈与は、自分が元気なうちに財産を少しずつ移転していく方法です。
贈与を行うことで、相続時の財産総額が減少し、結果的に相続税が軽減されます。
代表的な贈与の方法は次の2つです。
暦年贈与
年間110万円までは贈与税がかかりません。この「基礎控除枠」を活用すれば、贈与税の負担なく財産を移すことが可能です。
ただし、毎年同じ金額を同じ人に贈ると「定期金給付」とみなされて課税対象になる恐れがあるため、注意が必要です。
また、2024年からは「死亡前7年以内の贈与」が相続税の課税対象になっています(従来は3年)。
制度改正の動きにも目を配る必要があります。
一括贈与でも「特例」活用
以下のような特例制度を利用すれば、まとまった金額を一括で非課税贈与できます。
- 住宅取得資金の贈与:最大1,000万円
- 教育資金の贈与:最大1,500万円
- 結婚・子育て資金の贈与:最大1,000万円
ただし、利用には贈与契約書の作成、金融機関との手続き、申告などが必要で、制度ごとに期限や要件も異なります。
活用する際は最新の制度内容を確認しましょう。
3. 不動産を活用した評価額の引き下げ
不動産は、相続税評価額が実勢価格よりも低くなることが多く、現金や有価証券よりも有利に働くことがあります。
さらに、以下の制度を組み合わせることで評価額を大きく減らすことができます。
小規模宅地等の特例
被相続人が自宅として使用していた土地を相続する場合、一定の要件を満たすと330㎡までの部分について80%の評価減が受けられます。
たとえば、土地の評価額が4,000万円であっても、80%減額されることで課税対象額は800万円に抑えられます。
この制度は、配偶者や同居していた親族が主な対象となります。
その他にも活用できるケースがありますが、適用の基準は厳格に定められており、かなり複雑です。
専門家に確認ながら検討を進めることをお勧めします。
賃貸物件の活用
賃貸マンションやアパートを保有していると、自宅に比べて評価額が低く算定される傾向にあります。
これは、入居者の権利(借家権)が評価額に反映され、所有権に比べると権利が制限されるためです。
また、賃貸物件に対しても小規模宅地の特例が適用できるケースがあり、要件を満たせば200㎡まで50%の評価減が受けられます。
ただし、節税目的だけの賃貸経営はリスクが伴うため、事業性や収支の見通しも含めて検討すべきです。
一部のハウスメーカーなどが「節税効果」を前面にアピールしているケースがありますが、注意が必要です。
4. 死亡退職金の非課税枠を活用する
会社員や経営者が亡くなった場合、勤務先から支払われる死亡退職金にも「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。
この制度により、相続人が受け取る死亡退職金のうち一定額までは相続税がかかりません。
特に中小企業の経営者や個人事業主が加入できる「小規模企業共済」から支払われる共済金も、死亡退職金として扱われます。
そのため、事業者にとっては老後の備えだけでなく、相続税対策としても有効な手段になりえます。
5. 養子縁組によって控除枠を増やす
養子縁組によって法定相続人の数を増やすことで、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)や、生命保険金・死亡退職金の非課税枠も増加します。
たとえば、実子が1人の家庭で1人を養子に迎えると、控除額が600万円増えることになります。
ただし、税法上では養子の人数に制限があります。(民法上の制限はありません)
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
過度な節税目的とみなされると税務署から否認される可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。
また、養子が増えることによってトラブルになるケースもありますので注意が必要です。
まとめ|相続税対策は「早めの計画」が何より重要
相続税対策は、財産の規模や家族構成によって最適な方法が異なります。
大切なのは、「亡くなる直前」に慌てて対策するのではなく、元気なうちから少しずつ準備を進めておくことです。
生命保険の活用や生前贈与、不動産の見直しなど、できることから始めておくことで、家族への負担を軽減し、円満な相続につながります。
相続は一度きり。
だからこそ、信頼できる専門家と相談しながら、自分に合った相続税対策を立てることが何よりも大切です。



