マンションの相続税評価見直しについて計算してみた

西山広高

西山広高

テーマ:不動産


日経新聞一面に掲載された「マンションの相続税評価見直し」

興味がある方も多いようなので、現時点で分かっている情報をもとにちょっと考えてみました。




不動産の相続税評価については財産評価基本通達によって

  • 土地・・・相続税路線価をベースに計算
  • 建物・・・固定資産税評価額をベースに計算



されてきました。

マンションの場合、土地(敷地権部分)は、

  • マンションの敷地全体に対する相続税評価額を算出
  • マンション全体の持ち分に応じて按分することでここの区分所有部分の評価額を算出



でしたので、個々の区分所有部分を合計すると土地全体の評価額とイコールになることになります。

また、建物に関しても

  • 建物全体の固定資産税評価額を算出
  • 持分で按分



することになるので、個々の区分所有部分を合計すると建物全体の評価額とイコールになることが前提になっていました。




今回の見直しでは、この前提が崩れます。




想定を超えた高度利用



そもそも、これまでの財産評価基本通達はタワーマンションのような土地の高度利用を想定していなかったといえます。

タワーマンションの場合は、様々な工夫や都市計画上のメリットなどを生かし、敷地面積に対して多数の住戸を確保しようとしています。

例えば、都内最大の住戸数と言われる「THE TOKYO TOWERS」。

中央区勝どき6丁目にあり、約29,700㎡の敷地に2棟のタワーマンションが並び、総戸数は2,799戸になります。

1住戸当たりの敷地権の平均面積は10㎡ほどになります。

(マンションのような区分所有建物の場合、土地部分と建物部分の権利を切り離すことができず、土地部分の権利は「敷地権」と言われます)

このマンションはベイサイドの眺望以外に敷地周辺の公園、居住者専用のスポーツ施設、医療機関や24時間営業のスーパーなどの施設も敷地内に併設され、都営大江戸線の勝どき駅まで徒歩5分と恵まれた環境です。

このマンションの実勢価格は

38階の約80㎡(3LDK)が約1億円
最上階(58階)の約115㎡(3LDK)が約2億2000万円

程度と考えられます。

(本来、実勢価格は、実際に買い手がつき、特殊な事情などがないかどうかも考慮したうえで決まるものですから、あくまでも参考です)

正確にはわかりませんが、おそらくこのマンションの1億円の住戸の相続税評価額はおそらく3000万円以下でしょう。

周辺の相続税路線価は160万円ほど。

敷地権が11㎡だとしても土地部分の相続税評価額は1760万円程度。

建物もせいぜい1000万円くらいだと見積もって、あわせて2760万円くらい。

1億円で購入したマンションの相続税評価額は1/3以下になる計算です。



実際に計算してみると…




仮に、このようなマンションの所有者が亡くなったとします。

相続人は子一人。

このマンション以外に全く財産がないとするならば、

マンション 2760万円

基礎控除 3000万円+法定相続人1名×600万円=3600万円

2760万円<3600万円 ∴相続税額=0

となり、相続税はかかりません。




実際は、被相続人が亡くなられた時に「マンション以外には全く財産がない」ということはなのではないでしょうか。

仮に5000万円の金融資産があったとするならば、

マンション 2760万円、金融資産 5000万円、計 7760万円

基礎控除3600万円、課税対象額7760万円-3600万円=4160万円

4160万円×相続税率20%、控除額200万円 ∴相続税額 632万円

となります。



相続税評価額の計算はどう変わる?




今回の通達見直しにより、この実勢価格と相続税評価額の乖離を補正するとしています。




乖離率を計算する数式が掲載されています。

乖離率=「築年数×-0.033」+「総階数指数×0.239」+「所在階×0.018」+「敷地持ち分狭小度×-1.195」+3.220

総階数指数 総階数÷33(値が1を超える場合は1.0)

敷地持ち分狭小度 敷地権の面積を1室の専有面積で割って計算

乖離率が1.67以上となる場合、従来通りの評価額に乖離率の値と0.6を掛け、評価額を算出

(乖離率が1.67以下であれば従来通りの相続税評価額を採用)




先ほどのマンションをもとに算出すると

築年数15年×-0.033=-0.495

総階数指数 58階建てで33階を超えているため、1.0×0.239=0.239

所在階38階×0.018=0.684

敷地持ち分狭小度11㎡÷80㎡=0.1375 0.1375×-1.195=-0.1643

-0.495+0.239+0.684+(-0.164)+3.220=3.484




先ほどのマンションだと(実際にはそのマンションのデータが完ぺきではないので数値は想定だが)乖離率は3.484。

(ということは、このマンションの相続税評価額は2870万くらいってことになる)




先ほどのマンションの場合だと、実勢価格1億円、相続税評価額2760万円なので、乖離率は3.62倍。

計算上の乖離率は3.484倍

比較的近い数字になりましたね。

(計算あってるかな?)




相続税評価額に補正率をかけ、1.67で割って算出した額を補正後の相続税評価額とするようです。

2760万円×3.484倍÷1.67 ≒ 5758万円(補正後の相続税評価額)




マンションがこの相続税評価額だとして、先ほどのように相続人は子一人、ほかには全く財産がないと仮定すれば、

マンション 5758万円

基礎控除3600万円、課税対象額5758万円-3600万円=2158万円

2158万円×相続税率15%、控除額50万円 ∴相続税額 273.7万円

相続税額が273.7万円になりました。




被相続人にはこのマンション以外に5000万円の金融資産があったとすると、

マンション 5758万円、金融資産5000万円 合計 1億758万円

基礎控除3600万円、課税対象額 1億円758万円-3600万円=7158万円

相続税額 7158万円×相続税率30%-控除額700万円 ∴相続税額は1447.4万円

となることになります。




実際にマンションを所有されている方は登記簿や固定資産評価証明、固都税の納付書にある金額で算出できそうです。

(ちょっと面倒くさいですが)






ここで出した事例は参考です。
実際の計算の際には、個別に相続税評価額を計算するとともに、相続人の人数等によっても相続税額は変わりますのでご注意ください。



リンクをコピーしました

Mybestpro Members

西山広高
専門家

西山広高(ファイナンシャルプランナー)

西山ライフデザイン株式会社

西山ライフデザインは「不動産に強いFP事務所」「お金に強い不動産屋」です。不動産取引では「両手取引」を行わず、お客様の利益を最優先します。「上級相続診断士」として相続でもめないお手伝いをします。

西山広高プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

お金と不動産の知識で自分らしく幸せな暮らしを提案するFP

西山広高プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼