相続対策の基本(8) 相続で苦労するケース
オーナー企業や個人事業主で後継ぎがいないというケースが増えています。
会社という形態にしているか、個人事業として経営しているか、どちらにしても後継ぎがいないという問題は事業にかかわる内外の関係者にとっても大きな問題になります。
業歴が長いほど、周辺関係者は多いと思います。
どのような問題があるかはそれぞれの会社の業態や取引関係にもよるでしょう。
取引先の中にはその会社・事業がなくなってしまうことによって新たな調達先、発注先を探さなければなりません。代替する取引先が見つからなければ連鎖的に関連する取引先の業績に影響を与えてしまうこともあります。
どの程度の収益があるかも関係します。
赤字や収支トントンで経営を続けていて、「自分の代で事業を清算したい」と考えている場合でも従業員の処遇の問題や、会社が抱える債務がある場合にはその生産にかかわる問題があります。
黒字だったとしてもその事業を継承する人がいなければ存続できません。
多くのオーナー企業、個人事業主では、そのあと次の最有力候補として自身のご子息を考えるでしょうが、そのご子息が跡を継いでくれるケースも少なくなっています。
かといって、古くからいる従業員などに会社を譲渡するとしても黒字の会社の場合、その譲渡にかかわる資産評価が大きくなりすぎると「売却価格」や「贈与」にかかわる費用(税金も含めて)を考えざるを得ず、スムーズに譲渡できないケースもあります。
ご子息に後を譲りたいと考えていても、そのご子息にその気があるかどうかがという意識があるか否かがが重要です。
最近では核家族化が進み、地方では就学、そうでなくても就職や結婚のタイミングで多くの「子」は家を出ます。その後はあまり親子間で会話をする機会が亡くなるケースが少なくありません。
ご子息に「いずれ家業を継ぐ」という自覚があればそれを意識したコミュニケーションをとることもできるでしょうが、必ずしもそうした家庭ばかりではないでしょう。
ご子息に会社を引き継ぐとしてもその準備にはある程度の期間が必要です。社長・代表の体力があるうちはあまり後継者問題について考えていないケースが少なくありません。ところが、何か病気をしたり、自身の体力の衰えを感じ始めた時にはそうしたことを考える余裕がなくなってきます。
ご子息に圧を継がせるのであれば、社業に対する理解や従業員との関係構築に相応の機関が必要になります。少なくとも5年、できれば10年程度はそうした期間を確保したいところです。
結果として、どうするか決められないまま時間だけが過ぎていき、金融機関などから「後継者についての考え」について聞かれるようになったりしても適切な答えが出せず、融資が受けにくくなったりという事態も発生します。
事業を行う人にとっては、自分の次の代をどうするのか、という後継者問題は非常に大きな経営課題だと思います。
コロナウイルスの影響
このところ、コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、事業の売り上げが大きく落ち込んでしまっている事業主様も少なくないでしょう。
コロナ関連の融資はこれまで事業を続けてきた企業・事業者では比較的簡単に融資を受けることができるでしょう。しかし、「借金をする」ということは「返済しなければならない」ということでもあり、いつまで続くかわからないこのコロナウイルスの影響を考えると借り入れが増えることに対して大きな不安を抱えることにもなると思います。
今は多くの企業・事業者が苦しい時期で「背に腹は代えられない」という状況でしょう。順調に事業を行っていた時は、安心して次の世代に引き継げると思っていた方も、借金があまり大きくなってしまうとそれも躊躇してしまう原因になりかねません。
会社や事業の売却を考えるならば、売り上げが落ち込み今後の見通しが不透明な時期は良いタイミングではないでしょう。しかし、後継者に事業や株式を譲渡することを考えているならば借金が増えていたり、評価額が下がることはチャンスともいえます。
いつまでもコロナウイルスの影響が続くことを恐れていては身動きが取れなくなります。ご子息にいずれ事業を引き継ぐのであれば苦しい時は後継者教育という観点からもチャンスといえます。再建の道は険しいかもしれませんが、それを乗り越えた経験はきっとその後の経営に役立つはずです。
優良な会社であるにもかかわらず、その後継者がいないケースは少なくありません。経営者にとって「事業承継」は計画的に、長期的に取り組まなければならない大きな課題です。