物流のプロが、なぜ「対話」を仕事にしたのか。モノとコトの狭間に見えた真実
2026年4月1日から改正物流効率化法により、一定以上の貨物取扱量を持つ「特定事業者(荷主等)」は、経営視点で物流を監督する「CLO(物流統括管理者)」の設置が義務化されます。違反した場合、100万円以下の罰金が科される可能性があります。約3,000社が対象となり、経営層からの選任が求められます。
「物流効率化法」理解促進ポータルサイトよりー
物流がいよいよ経営課題の中心に位置づけられた、という象徴的な出来事だと思う。
人手不足、運賃上昇、サプライチェーンの不安定化。
もはや物流は「現場の問題」ではなく、企業の持続可能性そのものに直結している。
元メーカー系物流子会社の社長として長年この世界に身を置いてきた者として、
率直に言えば、ようやくここまで来たか、という思いがある。
しかし同時に、ひとつの懸念も浮かぶ。
CLOという役職を置けば、それで物流課題やロジスティクスは前に進むのか、という点である。
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CLOを置けば解決するのか
ロジスティクスとは、単なる物流管理ではない。
商流、金流、情報流を横断し、
在庫を設計し、生産と販売をつなぎ、
企業全体を一つの流れとして捉える思想である。
だからこそCLOは、本来きわめて戦略的な役割を担う。
だが現実には、ここで必ず壁にぶつかる。
ロジスティクスは横断機能と考え方だ。
そして横断とは、誰かの領域を越えることでもある。
在庫に手を入れれば営業に影響する。
生産計画を見直せば工場に負荷がかかる。
情報を統合すれば既存のやり方が揺らぐ。
仕組みやルールを強化すれば一時的には整う。
だが、それだけでは長続きしない。
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私が見てきた壁
長年、経営と現場の間に立ってきて感じたことがある。
現場の疲弊は、業務量だけが原因ではない。
同じ改善でも、
自ら意味を理解して「やる」のか。
上からの指示で「やらされる」のか。
この違いが、組織の力を大きく左右する。
CLOの仕事が難しいのはここだ。
ロジスティクスは“全体最適”を目指す。
しかし全体最適は、命令だけでは実現しない。
全体最適とは、単なる数値の最適化ではない。
立場の異なる人たちが、同じ方向を向くことでもある。
そこに対話がなければ、
横断は摩擦に変わる。
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仕組みだけでは越えられない壁
企業は問題が起きると、対策案として、まず仕組みを整える。
会議体をつくる。
KPIを設定する。
ルールを明確にする。(ルールが増える)
間違ってはいない。
だが仕組みが前面に出すぎると、人は「守る側」に回る。
守ることが目的になると、
考えることが減る。
やがてこうなる。
• 改善案は出るが、誰も本気で引き受けない
• 会議は整っているが、覚悟がない
• 在庫は減ったが、活力も減った
どこかで見たことのある風景ではないだろうか。
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統制と管理は何のためにあるのか
法律は守らなければならない。
品質、財務規律も当然守るべきだ。安全はまた全てに最優先される。
それらを遂行してくための
ルール・管理・統制の必要性はある。
しかし統制は、本来、
人を縛るためのものではない。
自由に動くための最低限の枠である。
枠が目的になったとき、
組織は硬直する。
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主体が連鎖すると何が変わるか
一方で、対話が機能している組織は違う。
経営が何を守り、何を取りにいくのかを言葉にする。
現場が何に困り、何に誇りを持っているのかを共有する。
すると、
• 在庫は「悪」ではなく「戦略資産」になる
• 横断は「指示」ではなく「合意」になる
• ルールは「縛り」ではなく「共通の前提」になる
仕組みが“動き始める”。
主体は、つくるものではない。
本来あるものだ。
ただ、それが出にくくなっているだけだ。
対話とは、それを解きほぐす行為である。
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これからのCLOに求められるもの
CLO設置は、始まりに過ぎない。
これから問われるのは、
数字を整える力だけでなく、
部門を越える覚悟をつくる力であり、
対立やトレードオフを正面から言葉にできる力ではないだろうか。
ロジスティクスは、企業の思想構造を映す鏡である。
そこに本気で向き合うなら、
仕組みと同時に、対話を設計する必要がある。
ロジスティクスが経営課題になる時代。
その成否を分けるのは、役職名ではない。
当事者がどれだけ増えるか。
そこに尽きると、私は思っている。
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CLOという重責を担う方、あるいは物流部門との摩擦に悩む経営者の方。まずはその『言葉』の整理から始めてみませんか?



