もっと子育てが楽しくなる!ペアレントトレーニングとは?

「診断」と聞くと、多くの人は不安になったり戸惑ったりしてしまいますよね。しかし、自閉スペクトラム症(以下、ASD)の診断は、決して悲観するべきものではなく、「支援を受けるために活用するもの」と前向きに捉えることが大切です。診断を受けることによって、お子さまがより適切な支援を受けることができ、自分らしく生きるための道筋をつけることができます。
診断をおこなえるのは医師だけです
ASDの診断は、医師だけがおこなうことができるものです。インターネットの情報や、保育者や支援者の迂闊な言葉に過度に影響を受ける必要はありません。
医師は、お子さまの行動観察や成育歴の聞き取り、発達検査などの結果を総合的に判断し、その子に支援が必要であると認めた場合に診断名を付けます。似たような症状を示す他の疾患と区別するため、追加の検査をおこなうこともあり、診断までに時間がかかることもあります。それくらい慎重に、ありとあらゆる可能性を考慮しながら判断をしているのです。
しかしながら、医師ではないにもかかわらず、ちょっとしたお子さまの気になる行動に対して「発達障がいではないか」と不用意な発言をして、ご家族やお子さまを不安な気持ちにさせる保育者(教員)や支援者は、どこに行ってもいるように見受けられます。とても残念なことです。
私も療育施設で保護者さまと面談をしていると、「うちの子は発達障がいなのでしょうか?」「先生から見てどう思いますか?」と私見を尋ねられることがあります。すべての方に対して「診断は医師しかできないことなので、私の口からはお伝えできないのです」とおことわりしたうえで、「小さいお子さまの発達は変化もしますし、個人差が大きいものです。今だけの個人的な見立てを伝えて、もしそれが間違っていたとしても、お父さまとお母さまには私の言ったことが将来にわたって影響を与える恐れがあります。それよりも今のお子さまの状態をしっかり見つめて、困りごとに対してどうしていくかを一緒に考えましょう」とお伝えしています。
周囲の意見に振り回される必要はありません。「困りごとベース」で冷静に向き合うことが大切だと思います。
未成熟な社会のなかで自分らしく生きるために
ASDの診断があるからといって、あるいはその発達特性があるからといって、その子が何か劣っているというわけでは決してありません。また、そのために特訓や矯正をしなければいけないというものでもありません。
ただし、脳の機能が多数派と異なるために、社会の中で困りごとが生じやすいと言われています。現在の社会は多数派の人々を前提に作られているため、少数派であるASDの特性を持つ人々にとっては、生きづらさを感じる場面が少なくないのです。
ASDの特性には、コミュニケーションの取り方の違いや、特定のルーチンや興味への強いこだわり、感覚過敏・鈍麻などが含まれます。例えば、大きな音や強い光に対して過敏に反応するお子さまは、学校のチャイムや放送、蛍光灯の光などが負担になることがあります。また、社会的な暗黙のルールを理解しづらいために、集団行動が難しくなることがありますが、個人の能力不足ではなく、社会の仕組みが多数派に合わせて作られているために生じるものです。そのため、一人ひとりが適切な支援を受けることは、こうした困難をできるだけ軽減し、お子さまが社会の中で自分らしく生きられるようにするための有効な手段となります。
聴覚過敏のお子さまにはイヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンを活用する、光が苦手な場合は照明を調整するなどの配慮が考えられるでしょう。コミュニケーションの工夫としては、視覚的なサポートを活用する、明確な指示を出す、選択肢を示すなどの方法も有効です。お子さまが安心できる環境やアイテムを、一人ひとりに合わせて考えてみましょう。
診断名にとらわれず、その子に合った支援を
診断はお子さまがより良い支援を受けるための手がかりであり、決して悲観するべきものではありません。診断名だけにとらわれず、お子さまの特性に合った支援を見つけて、より生きやすい環境を整えることが何よりも大切です。児童発達支援や放課後等デイサービスなど、診断がなくても受けられる支援サービスもたくさんありますので、困りごとがあったときは地域の支援機関などにも相談してみましょう。大切なことは、お子さまが自分を大好きなまま成長できるように、周囲が適切なサポートをしていくことです。



