会社員のまま起業準備|新井一氏が語る「動けない99%」を抜け出す3つの壁の乗り越え方
三つそろえないと違法、ではない
――新井さん、今日は見積書・納品書・請求書の違いです。副業で仕事を受け始めた方から「納品書も必要ですか」という相談はありますか?
新井:ありますね。最初は口約束で受けて、終わったらメールで金額を伝えて振り込んでもらう。何件か進んだところで、相手の会社から「見積書と納品書もください」と言われて焦る。よくある流れです。
――出さないと法律違反になるのでしょうか?
新井:見積書、納品書、請求書の三つについて、受ける側に一律で交付義務があるわけではありません。三点そろえないと違法という話ではないですよ。ただし、仕事を進める上では役割が違います。義務かどうかだけで見ると、実務で困ります。
見積書は始める前、納品書は渡す時
――それぞれの役割を整理すると、どう分かれますか?
新井:見積書は、仕事を始める前に金額、範囲、納期をそろえる書類です。納品書は、成果物を渡す時に「何を、いつ、どれだけ渡したか」を示す書類。請求書は、引き渡しのあとに支払う金額、期日、振込先を伝える書類です。
――同じ内容を何度も書くように見えますが、確定させるものが違うのですね。
新井:そうです。見積書がないと、追加作業の線引きが曖昧になります。納品書がないと、相手の社内で検収が止まることがある。請求書がないと、経理に支払いの根拠が届かず、入金が翌月へずれることがあります。どれを出すかは、相手の処理と取引の規模で決めればいいです。
書面がなくても契約は成立する
――口約束だけでも契約は成立しているのでしょうか?
新井:原則として成立します。メールで「この内容、この金額でお願いします」と合意していれば、約束はもうできています。書類を出さないこと自体がただちに違法というわけではありません。
――では、書類は何のために作るのですか?
新井:あとで話が食い違ったときに、自分を守るためです。特に会社員のまま休日に仕事を受ける方は、平日の勤務と自分の仕事が重なります。どこまでやるか、いつ返すか、修正は何回までか。これを書かずに始めると、時間も気持ちも削られます。書類は相手に見せるためだけでなく、自分の働く範囲を守るものです。
インボイス登録済みなら請求書の中身を見る
――例外はありますか?
新井:まず、自分がインボイスの登録を受けている場合です。課税事業者の取引先から求められたら、適格請求書の要件を満たした書類を交付し、その写しも保存します。ただし、表題が必ず「請求書」でなければいけないわけではありません。必要な項目がそろっていれば、納品書などでも役割を果たすことがあります。
――名前より中身なのですね。
新井:はい。氏名や登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの金額と消費税額、相手の氏名や名称。こういう項目が足りているかを見る。インボイス未登録なら、登録番号つきの適格請求書は出せません。ここを無理に整えようとすると、かえって説明がややこしくなります。
発注側にも条件を示す義務がある
――仕事を出す側に義務がある場合もあるのですね。
新井:あります。フリーランスとの取引では、発注側が業務内容、報酬額、支払期日などを明示する義務を負う場面があります。中小受託取引の制度でも、委託する側に同じ趣旨の明示義務があります。つまり、条件が口頭のままなのは、受ける側だけの落ち度ではありません。
――それでも自分から見積書を出す意味はありますか?
新井:あります。相手の義務を肩代わりするためではなく、後の交渉を楽にするためです。金額だけでなく、範囲、納期、修正回数、納品の形を先に書いておく。そうすると「ついでにここも」と言われた時に、追加かどうかを話しやすくなります。
最初は請求書一枚からでいい
――起業準備中や副業初期の人は、どこまで整えればいいでしょう?
新井:相手が個人のお客様なら、金額、振込先、支払期日を書いた請求書一枚で足りる場面が多いです。相手が法人なら、見積書で範囲を固め、引き渡しに納品書、支払い依頼に請求書という三点にすると、相手の社内処理が止まりにくくなります。
――全部を最初から完璧にそろえなくてもいいのですね。
新井:はい。月に数件、月五万円くらいの規模なら、まず請求書の型を一つ作る。それで足りなくなったら、見積書と納品書を足す。大事なのは、様式の美しさより返事の速さです。申し込みが入った当日に受付の返信をする。いつまでに何を返すかを決める。信用はそこから作られますよ。
――書類は、相手の社内で処理が止まらないための道具でもあるのですね。
新井:そうです。納品書を出すかどうかで悩んだら、「法律違反か」だけで止まらず、相手の検収と自分の入金が止まらないかを見てください。そこが見えれば、三つの書類をいつ使うかは自然に決まります。
――見積書は範囲、納品書は渡した中身、請求書は支払い。整理できました。ありがとうございました。
新井:こちらこそ、ありがとうございました。
起業家インタビュー(聞き手:伊藤純子)
新井一氏プロフィール
起業18フォーラム代表。「会社員のまま6カ月で起業する」方法を伝える起業支援キャリアカウンセラー。キャリア26年以上の実績を持ち、延べ60,000人の会社員の起業をサポート。会社員時代に始めた事業で培ったノウハウ、多数の起業家を生み出してきた実践的技術を武器に、起業支援&集客マーケティングの専門家として活動中。
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