50代・60代にこそ「副業起業」という選択肢を
「Z世代のマーケターが、シニア世代のひとり暮らしの【あの感覚】を本当に理解できると思いますか?」
これは、60代の起業相談者の方が、ぽろりとこぼされた一言です。私は思わずメモを取りました。この言葉の中にこそ、これからのシニア起業家にとって、大きな武器になる視点があると感じたからです。
日本のシニア市場は今、「100兆円市場」と呼ばれる規模にまで成長しています。みずほ銀行産業調査部によると、シニア関連市場規模は2023年度で96兆円、2040年度には115兆円規模へ拡大すると見込まれています(出典:みずほ銀行産業調査部、2023年度実績)
この数字を、大企業のマーケティング部門が見逃しているはずがありません。にもかかわらず、なぜシニア向け事業の多くは伸び悩むのでしょうか。10年以上、50代以上の起業家を伴走支援してきた私の答えは、とてもシンプルです。
「マーケター自身が、まだ当事者ではないから」です。
ハルメク 生きかた上手研究所が2025年12月に発表した「2025-2026シニアトレンド」では、5大潮流のひとつとして「戦力シニア」
というキーワードが選ばれました。おてつたびやタイミーなどを活用し、場所や時間に縛られず自由に働く60代が、今では地域や企業にとって欠かせない存在として、改めてその価値を発揮し始めているという現象です(出典:株式会社ハルメクホールディングス、2025年12月発表)。
私が今日お伝えしたいのは、この「戦力シニア」のさらに一歩先の可能性です。シニア世代が“働く側”ではなく、起業する側に回ったとき、何が起きるのか。そこには、100兆円とも言われるシニアマーケットの中で、若い世代には簡単には真似できない大きな勝機があるということです。
なぜなら、50代・60代以上の方々は、同世代ならではの悩みや不安、価値観を、自分自身の経験として深く理解しているからです。長年の仕事や人生経験、人とのつながり、信頼関係。これらは、一朝一夕では身につきません。年を重ねてきたからこそ見える課題があり、届けられる価値があります。
そして今の時代は、単に「課題を解決できる商品やサービス」だけでは選ばれにくくなっています。インターネットやAIの進化によって、情報は誰でも簡単に手に入るようになり、似たような商品やサービスも世の中に溢れているからです。
だからこそ最後に選ばれるのは「この人から買いたい」「この人に相談したい」と思える「共感」や「信頼」です。特にシニア世代は、価格や便利さだけではなく「この人は自分の気持ちを分かってくれる」と感じられることが重要なのです。
つまり、これまで歩んできた人生そのものが、これからの時代には大きな強みになるということです。若さや流行では簡単に埋められない価値が、そこにはあるのです。
当事者だからこそ持てる「シニア市場の解像度」
実はこれ、私が支援する50代・60代の起業家の方々とお話しする中で、いつも感じることなのですが、シニア世代が日常の中で感じている“ちょっとした不便さは、実際にその年代を生きていないと、なかなか気づけないということです。
たとえば、「スマートフォンを見るたびに老眼鏡を探してしまう、あの小さなストレス」。こうした感覚は、単なる不便さではなく、シニア向けサービスを考える上で非常に大切な視点になります。
ハルメク 生きかた上手研究所の調査では、シニア女性のSNS利用率は、コロナ前の2019年の11.9%から、ポストコロナの2023年には31.9%へと急伸し、デジタル機器の利用も大きく伸びています(出典:ハルメク 生きかた上手研究所、2023年発表)。けれども、シニアがスマートフォンを「使える」ことと、シニアが心地よく使えるサービスを「設計できる」ことは、まったく別の能力です。
これこそが、シニア当事者起業家が持つ「解像度」です。自分自身が、その身体、その感覚、その生活時間の中で日々生きているからこそ持てる、利用者視点の細やかな現実認識です。
たとえば、「申込フォームの文字サイズが、どのくらいから見づらく感じ始めるのか」「電話のオペレーターが何秒以内に名乗らないと不安になるのか」「初対面の若い営業担当者に、どんな言葉遣いをされると壁を感じるのか」こうした細部の積み重ねが、シニア向け事業の勝敗を分けます。
さらに重要なのは、単に機能や利便性だけではなく「どのようにコミュニケーションを取るか」です。シニア世代は、効率だけではなく、「ちゃんと自分の話を聞いてくれているか」「安心して相談できるか」「自分を理解しようとしてくれているか」といった、人との関わり方をとても大切にします。
こうした感覚は、調査データだけではなかなか見えてこない、当事者だからこそ分かる感覚なのです。
100兆円市場の「内訳」が示す3つの参入チャンス
「100兆円」という数字だけを見ても、何から手を付ければよいか分かりません。私が相談時にいつも申し上げているのは、内訳を分解して見る、ということです。
みずほ銀行産業調査部の試算では、2023年度の96兆円のうち、医療・介護市場が約40.7兆円、生活産業が約55.7兆円という構成です。2040年度には医療・介護が54.3兆円、生活産業が60.5兆円に拡大すると予測されています(出典:みずほ銀行産業調査部、2023年度実績)
ここから読み取れる、シニア当事者起業家にとっての3つの参入チャンスをお伝えします。
・生活産業の60兆円規模——食・住・娯楽・学び・趣味など、生活の質を高めるサービス全般
・医療・介護の予防領域——重症化を防ぐ前段階の健康維持・認知症予防・フレイル対策
・デジタルとリアルの橋渡し——スマホ操作のサポート、買い物支援、見守りサービスなど
特に2つ目と3つ目は、現在進行形で課題が増え続けている領域です。健康寿命と平均寿命のギャップを埋めるサービス、デジタル化に置いていかれそうな高齢者を支えるサービス——どちらも、当事者であるシニア起業家が、ご自身の経験を「商品」に変えられる領域だと、私は考えています。
東京都の最新採択事業に見る「攻略のヒント」
「とはいえ、具体的にどんな事業が今、評価されているのか」これは、ご相談の場で必ずいただく質問です。最新の手がかりとして、ぜひ参考にしていただきたい公的な情報があります。
東京都と東京都中小企業振興公社は、令和7年度「高齢者向け新ビジネス創出支援事業」の支援対象事業10件を、2026年1月13日に決定・発表しました(出典:東京都中小企業振興公社、2026年1月13日発表)。最大750万円までの開発・改良費を助成する、シニア市場に特化した制度です。
発表された支援対象は「生活の質の向上を目的とするビジネス」「生活機能の維持・低下防止を目的とするビジネス」「就労・自立支援・デジタルデバイド解消などを目的とするビジネス」の3分野に整理されています。
私がこの採択動向で特に注目しているのは「シニア当事者でなければ気づきにくい繊細な課題」が、明確に評価されているという点です。
たとえば、加齢による感覚の変化、生活動線の小さな不便さ、デジタルとアナログの間で戸惑いを感じる方への支援など、どれも“実際にその世代を生きているからこそ見えてくる課題”ばかりです。
つまり今のシニア市場では「大きな発明」よりも「日常の中にある小さな困りごと」に気づける視点が、大きな価値になり始めているということです。
自治体の助成事業は、社会が今どこに資源を投じようとしているのかを示す、非常に信頼性の高い“先行指標”のひとつです。ご自身の経験や違和感の中にも、これからの市場につながるヒントが隠れているかもしれません。ぜひ、ご自身の事業アイデアを考える際の参考にしてみてください。
あなたの人生経験そのものが、最大の市場調査データです
私が相談者の方に、何度も繰り返してお伝えしている言葉があります。
「あなたが40年・50年かけて積み重ねてきた経験や感覚こそが、この市場における最大の強みです」
大企業がシニア向け事業のために行う市場調査には、1件で数百万円から数千万円のコストがかかることもあります。それでも分かるのは、回答者が“言葉にできたこと”だけです。
けれども、シニア当事者起業家である皆さんは、生まれてから今日までの人生の中で、言葉にすらしてこなかった違和感や工夫、喜びや不安を、日々の実感として積み重ねてこられています。これこそが、シニア市場を考える上で、とても大切な視点になるのです。
実際に、「プロ50+(プロフィフティプラス)」の活動を通じて、
「プロ50+(プロフィフティプラス)」
私は多くの50代・60代の方々と出会ってきました。最近では、長年続けてきた趣味や仕事の経験を「同世代の役に立つサービスにしたい」「自分と同じ悩みを持つ人の力になりたい」と考える方が、本当に増えています。
100兆円とも言われるシニア市場には、まだ本当に当事者の気持ちを理解したサービス”が足りていません。だからこそ、これまでの人生経験を持つ皆さんにしか生み出せない価値があります。
「もう遅い」ではなく、「今だからこそできることがある」。
もし少しでも心が動いたなら、まずは小さな一歩からで大丈夫です。ご自身の人生を棚卸ししてみること。セミナーやイベントに参加してみること。誰かに自分の経験を話してみること。そんな小さな行動が、あなたの人生の新しい可能性につながっていきますよ。


