AI時代、50代起業が有利な理由
「退職金には手を付けたくない。でも、定年後にもう一度、自分の人生を意味あるものにするために、退職金を使ってでも独立したい」
東京創業ステーションで50代からの独立相談を担当していると、こうした言葉を本当によく耳にします。お金の不安と、人生をこのまま終わらせたくないという想い。この相反する二つを同時に抱えていらっしゃる方が、本当に多いのです。
結論からお伝えします。定年後の起業は、退職金を使わずに始めるための「3つの要素」を押さえているかどうかで、その後の成功率が大きく変わります。
私が16年以上にわたって関わってきた数多くの50代以上の起業希望者の方々を見てきて、これははっきりと言えることです。
この30年で60歳以上の起業家は約5倍、50代の起業希望者は約2倍に増えています
(※出典:中小企業庁「小規模企業白書」、日本政策金融公庫総合研究所 調査資料等」)
再雇用ではなく「自分で事業を持つ」という選択は、もはや特別なことではありません。今日はその始め方を、私の実務経験からお話しします。
退職金が消える本当の理由は「順番」
実はこれ、ご相談に来られた方の多くが最初に驚かれることなのですが、定年後の起業で退職金が早く減っていくのは、事業の中身よりも「始める順番」に原因があることが少なくありません。
私のところに来られる方の中には、定年と同時に事務所(最近はシェアオフィスなど)を借りて、ホームページを作って、パンフレットを作って、名刺を刷って、機材を揃えて……と、いわゆる「形」から入ってしまう方がいらっしゃいます。準備としてはどれも必要なものですが、お客様がまだ一人もいない段階で固定費を作ってしまうと、退職金が「貯蓄」ではなく「運転資金」に変わっていきます。
私自身、30代で会社を起こしたとき、やりたいことをすぐに理解してもらえずつらい思いをした時期がありました。その経験から強くお伝えしたいのは、定年後の起業ほど「先に売れる仕組み」「先に応援してくれる人」を整え、その手応えを確認してから固定費に踏み込んでいく順番が大切だということです。順番を変えるだけで、退職金に手をつけずに起業の一歩を踏み出すことができるのです。
退職金を守る3つの要素
今まで多くの相談者と接して、定年後の起業で退職金を守りながら起業に成功された方には主に共通する3つの要素があることが分かりました。どれか一つだけでもいいかな。と思われるかもしれませんが、ここはあえて強く申し上げます。どれか一つではなく、この3つを組み合わせることで、退職金に手を付けずに成功する可能性がぐっと高まるのです。それぞれの要素を、私のコンサルティングの場でお話ししている内容に沿って整理します。
① 副業助走する
在職中であれば、在職中から小さく試すのが基本です。週末や夜間の時間を使って、ご自身の事業の種を小さく動かしてみる。需要を見極めながら、ご自身に合うかどうかを確認できる、最もリスクの低い助走の方法です。
在職中の副業が難しい状況にある方は、無理に動かすのではなく、起業の準備だけでも進めておくことが重要です。後ほどお話させていただく「11のステップ」は50代以上の起業を成功させるためには必要不可欠なステップとなりますので、その準備に加えて学び・人脈づくり・情報収集など、お金をかけずにできる準備が沢山あります。
既に定年を迎えられている又は定年直前の方であれば、毎月きちんと得られる仕事を行いながら(これはアルバイトなどでも勿論OKです)退職金を使わずに、副業起業として小さく試すところから始めることが重要です。「定年したから本格的に」ではなく、「定年したからこそ小さく」これが退職金を守る大原則です。
この重要性については別のコラムで詳しくお話していますので、ぜひご覧ください。
② スキルや経験をベースに勝てるモデルをつくる
経験そのものをビジネスモデル(商品)にする発想です。これまでの職務経験・人脈・ノウハウ・専門知識等、どれも50代・60代のご自身にしか持てない貴重な資産です。これを誰に・どんな形で届ければ価値になるのかを設計するのが、勝てるビジネスモデル作りの中心です。
勝てるモデルとは、ご自身が長く続けられて、お客様にも継続的に選ばれる事業設計のことを指します。
一度限りの売上ではなく、ご自身の経験が時間をかけて積み上がっていく形を最初から組み立てておくと、退職金を取り崩す前に事業が育ちます。
③ 11ステップ準備をする ― 起業前にビジネスモデルを整え
起業の半年〜1年前から、私が体系化した「11のステップ」のうち少なくとも8まで在職中に準備しておくことを、私はいつもお勧めしています。
11のステップとは、私が16年以上の50代以上の起業支援の中で体系化した「起業準備の進め方」のことです。50代・60代の起業成功の鍵は、ご自身に合った「勝てるビジネスモデル」を作れるかどうかにかかっています。
そしてそのビジネスモデルは、いきなり考えて出てくるものではありません。人生の棚卸しを起点に、ステップを順番どおりに丁寧に進めていく中で、ご自身の経験と市場のニーズが重なる場所として浮かび上がってくるものなのです。11のステップの順番を飛ばさないこと。特に最初の人生の棚卸しを省くと、後のステップが空回りしてしまいます。11ステップの全体像と最初のステップの考え方は、別のコラムで詳しく解説しています
「人生の棚卸し」とは、職務経歴だけでなく、プライベートの経験・転機・失敗から学んだことまでを整理し、自分の強みを発見するプロセスのことです。プロ50+では、起業のテーマや方向性を考える前に、必ずこの棚卸しからご一緒します。50代、60代、70代の方は、仕事の実績だけでなく、生きてきた経験値そのものが豊富です。3つの要素のどれを軸に組み立てるかは、この棚卸しの結果から自然に見えてくることが多いのです。
60代起業家が5倍に
定年後に起業する方は今、急速に増えています。60歳以上の起業家割合は、この30年余りで大きく増加しており、特に女性では約5倍に拡大しています。また近年は、50代・60代を中心に、起業やセカンドキャリアへの関心も高まっています。(※出典:中小企業庁「小規模企業白書」)
現在、日本ではシニア世代の就業率が年々高まっており、65〜69歳では約半数、70〜74歳では約3割、75歳以上でも1割以上の方が現役で働いています。
年齢に関係なく、「これまでの経験を活かして社会とつながり続けたい」と考える方が増えているということです。(※出典:総務省統計局「労働力調査」、内閣府「令和7年版 高齢社会白書」)
つまり、「定年後にもう一度動きたい」という気持ちは、決してご自身だけのものではないということです。
むしろ、今や多数派になりつつあります。私が東京創業ステーションのコンシェルジュとして50代からの独立相談を担当する中でも、ご相談に来られる方の年代は、50代だけでなく、60代、70代へと明らかに広がってきました。コロナ禍を境に、50代の方からのご相談もさらに増えたと感じています。
ただし、気をつけたいのは、勢いで始めることと、自分のこれまでの人生と向き合いながら計画的に挑戦することは、まったく別物だということです。
勢いに押されるのではなく、ご自身の人生に背中を押されるように、感情に流されず丁寧に事業を育てていこうという気持ちで始めた方ほど、長く続いていらっしゃいます。
これは私が16年間、現場で見てきた率直な実感です。
失敗談こそ財産 50歳からのブランド作り
ブランディングというと、若い起業家や大企業のための言葉のように思われがちですが、私はむしろ、50代以上の方こそ、ご自身をブランド化する効果が大きいと考えています。なぜなら、お持ちの経験値が深く、語れるエピソードにも重みがあるからです。
私がコンサルティングの場でいつもお伝えしているのは、起業を実現するのは、絵に描いたような成功事例や輝かしい経歴だけではない、ということです。むしろ、失敗談や苦労話に共感する人が集まったり、巻き返しを図る過程で学んだことがビジネスのヒントになったりします。
達成感も挫折感も味わった今だからこそ、できることがあるのです。
ご自身の能力やスキルを整理し、得意分野を明らかにして強みとして打ち出していく。これは派手な発信ではなく「ご自身が誰の役に立てる存在なのか」を丁寧に言語化していく地道な作業です。この準備ができている方ほど、最初のお客様にたどり着くまでが早く、結果として退職金にも手をつけずにスタートできていらっしゃいます。
プロ50+の活動の中で、講演会や個別相談、セミナー講師養成講座などを通じて、これまで多くの方の「定年後の最初の一歩」をご一緒してきました。次は、あなたが一歩を踏み出す番ですよ。


