認定日本語教育機関の申請結果から考える|日本語教育は「試験に合格する」から「使える」へ

石川陽子

石川陽子

テーマ:日本語教育



こんにちは。
エルロン代表、元人事 × 日本語教師歴12年の石川陽子です。

文部科学省が公表した
「令和7年度2回目」の
認定日本語教育機関の認定結果を見て
とても考えさせられることがありました。


申請機関総数は100機関。
そのうち認定されたのは32機関。

一方で、審査中に申請を取り下げた機関は
53機関にのぼります。


この数字だけを見ると、
「なぜ、これほど多くの学校が申請を取り下げたのか」
そう感じる方も多いのではないでしょうか。


申請を取り下げた理由は公表されていません。
ですので、個別の理由を断定することはできません。


ただ、認定申請の手引きや、
私自身が日本語教育の現場で受けている
相談を踏まえると、
今、日本語教育機関には
大きな転換が求められているのだと感じます。

試験に合格する日本語から、使える日本語へ


これまで、留学生を受け入れている日本語学校では、
JLPT、日本語能力試験の対策が
大切な学習目標の一つとされてきました。


文法や文型を先生が説明し、
学生がそれを理解し、
問題を解けるようにする。


もちろん、これはとても大切な学習です。


留学生にとって、JLPTの合格は、
進学や就職の場面で今も大きな意味を持っています。

特にN2レベルは、
就職活動や在留資格の手続きに関わる場面でも
重要な目安として見られることがあります。


ですから、
日本語学校が試験対策を重視してきたことには、
当然の理由があります。


一方で、以前から日本語教育の現場には
大きな課題がありました。


それは、

試験に合格していても
実際の場面で日本語を使うことが難しい

という課題です。


これは、
日本人の英語学習にも似ています。


学校で長く英語を勉強して、
試験では点数が取れても、
いざ外国人と話す場面になると、
言葉が出てこない。


それと同じように、
日本語を学ぶ外国人の中にも、

・文法問題は解ける
・読解問題もある程度できる
・でも、職場での指示が理解できない
・自分の考えを日本語で伝えられない
・わからないことを質問できない

という方がいます。


私自身、留学生の就職活動支援や、
就職後の外国人材への日本語研修を担当する中で、
この課題を何度も見てきました。


日本語能力試験に合格していることと、
職場や社会の中で日本語を使えることは、
必ずしも同じではありません。


だからこそ、これからの日本語教育機関には、
「試験に合格させること」だけではなく、

日本語を使って考える。
質問する。
相談する。
相手と関係を築く。

そうした力を育てることが
より強く求められているのだと思います。

でも、授業を変えるのは簡単ではない


この方向性自体は、とても大切です。

外国人材を採用する企業にとっても、
日本語の知識だけでなく、
実際に日本語を使って働ける力が育つことは
大きな意味があります。


ただし、これを授業に落とし込むことは、
決して簡単ではありません。


試験対策の授業と、
日本語を使えるようにする授業では、
授業の作り方が大きく異なります。


試験対策であれば、

「今日はこの文法を学ぶ」
「この問題形式に慣れる」
「読解問題を解けるようにする」

という形で、授業を組み立てやすい面があります。


一方で、日本語を使えるようにする授業では、
考えなければならないことが増えます。


たとえば、

・どんな場面で日本語を使えるようにするのか
・どんな会話ができればよいのか
・授業の中で、どう話す機会を作るのか
・できるようになったことを、どう確認するのか
・JLPT対策と会話力の育成を、どう両立するのか


こうしたことを、
それぞれの学校が自分たちで考え、
教科書を選び、
到達目標を決め、
カリキュラムとして形にしていく必要があります。



実際にエルロンにも、

「今までの授業を、どう変えたらいいのかわからない」
「運用力を育てる授業にしたいけれど、何から始めればいいかわからない」
「認定申請に向けて、カリキュラムをどう整理すればいいかわからない」

というご相談が寄せられています。



今回、申請を取り下げた機関が多かった理由は、
公表資料からはわかりません。


ただ、現場で相談を受けている立場から見ると、
カリキュラムを作り直すことの難しさは、
大きなハードルの一つになっているのではないかと感じます。

N2を目指しながら、話せる力も育てる難しさ


さらに難しいのは、
試験対策の重要性がなくなったわけではない
ということです。


留学生にとって、N2取得は今も重要です。


就職活動でも、
企業の求人票に「N2以上」と書かれていることは多くあります。


そのため、日本語学校としては、
限られた在学期間の中で、
N2取得を目指しながら、
同時に会話力や職場で使える日本語力も育てていく必要があります。


これは、本当に悩ましい課題です。

特に、漢字に慣れていない国の学習者にとって、
日本語の読み書きを身につけることは
とても大きな負担です。


その中で、試験対策だけを行うのではなく、
聞く、話す、読む、書くをバランスよく伸ばし、
実際に日本語を使える力につなげていく。


これは、日本語学校にとって
大きな挑戦です。


一方で、エルロンの研修では、
先に「聞く・話す」の力を伸ばすことで、
結果的にJLPTの学習にもよい影響が出ています。


まずは、

「聞いてわかる」
「話して通じる」
「日本語を使うことが怖くない」

という状態を作ることが、
その後の学習の土台になると感じています。


ただし、そのためには、
これまでの授業の進め方を大きく見直す必要があります。


先生が説明し、学生が聞く授業から、
学生が話し、考え、使いながら学ぶ授業へ。



この転換にはもう少し時間がかかるように感じています。


そして、この転換の難しさが、
認定申請に向き合う日本語教育機関にとって、
大きな壁になっているのではないでしょうか。

就労分野の日本語教育


今回の認定結果でもう一つ注目したいのが、
「就労分野」です。

就労分野とは、簡単に言えば、
働く外国人のための日本語教育です。


外国人材を採用する企業にとっては、
本来、とても重要な分野です。


ところが、文部科学省の認定結果を見ると、
就労分野で認定された機関は、
まだ非常に限られています。


なぜ、働く外国人のための日本語教育は
必要とされているはずなのに、
認定は進みにくいのでしょうか。


次回は、
企業向け日本語研修を行っている立場から、
就労分野の認定が進みにくい理由について
考えてみたいと思います。


<参考>
認定日本語教育機関の認定結果
https://www.mext.go.jp/a_menu/nihongo_kyoiku/1420729_00022.htm

認定日本語教育機関の認定申請等の手引き
https://www.mext.go.jp/content/20260325-mxt_nihongo01-000039537_02.pdf

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石川陽子
専門家

石川陽子(グローバル共創デザイナー、日本語講師)

株式会社aileron(エルロン)

アウトプット重視の「教えない日本語授業」で、短期間で話す力を育成。業界ごとのカリキュラムで、現場対応力も強化します。管理職向けの「やさしい日本語」研修も提供し、外国人材が活躍できる職場づくりまで支援。

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