ダイエットが続かない人の9割が陥る「ご褒美の罠」

川瀬由理

川瀬由理

テーマ:お悩み相談

パーソナルトレーニングの現場で活躍されているトレーナーの先生方から、私のもとによく寄せられる相談があります。それは、「クライアント様がトレーニングには熱心に来てくださるのに、食事管理がうまくいかず結果が出ない」という切実な悩みです。

先日も、こんな相談を受けました。

「週に2回、ハードなトレーニングを欠かさずこなしてくれるクライアント様がいます。しかし体重がなかなか落ちません。詳しく話を聞くと『今日は頑張ったから』『筋肉痛がくるくらい動いたから』と、帰宅後やオフの日にどうしても間食をしてしまうそうなんです。本人も『やめなきゃ』とは言いつつ、運動している安心感からか食べる癖が抜けないようで...」

もしかして、あなたもこれと同じ状態に陥っていませんか?

週に何度もジムに通って、汗をかいて、筋肉痛にも耐えている。なのに体重計の数字は変わらない。そして帰宅後や休日に「今日は頑張ったし、これくらいいいよね」と、つい手が伸びてしまう。

この悩み、実はトレーナーだけでなく、真面目にダイエットに取り組んでいる多くの人が一度は陥る「努力の落とし穴」なのです。

今回は、なぜ「運動を頑張る人ほど間食がやめられないのか」という心理的メカニズムと、意志の力に頼らずにその状態から抜け出すヒントについてお話しします。


なぜ「運動している安心感」が太る原因になるのか?

心理学が証明する「モラル・ライセンス」の罠

「今日はジムで汗を流したから、ビールを飲んでもいいだろう」 「筋トレをしたから、ケーキを1つくらい食べてもプラスマイナスゼロだ」

そんな考えが頭をよぎった経験ありませんか? 実はこれ、あなたの意志が弱いからではありません。心理学では「モラル・ライセンス(Moral Licensing)」と呼ばれる、人間なら誰もが持っている心理傾向なんです。

人は「良いこと(運動など)」をした後に、「少しなら悪いこと(過食など)をしても許される」と無意識に自分に許可を出してしまいます。

つまり、あなたの脳が「運動=免罪符」と認識してしまっているのです。だからいくら「間食は控えよう」と頭で分かっていても、この無意識の許可証が発行され続ける限り、行動を変えるのは非常に困難です。

「我慢しなさい」が逆効果になる理由

ここで多くの人がやってしまうのが、さらに厳しく「我慢」しようとすることです。

「間食はプロテインに置き換えよう」 「もっと意志を強く持たなきゃ」

でも実は、これは逆効果になることが多いのです。 なぜなら脳科学の視点で見ると、我慢すればするほど脳はストレスを感じ、その反動で「報酬(=食べること)」をより強く求めてしまうからです。

根本にある「脳のクセ」が変わっていない状態で、無理やり行動だけを制限しようとすると、いつか必ず反動がきます。これがリバウンドの正体です。

太らない人が無意識に持っている「判断軸」とは?

「我慢」しているのではなく「選んでいない」だけ

では、どうすればこのループから抜け出せるのでしょうか? ヒントは、世の中にいる「自然に体型を維持している人」や「会食が多くても太らない人」の中にあります。

私は20年間、会食や接待が日常的にある経営者やビジネスリーダーの方々と接する機会が多くありました。彼らを間近で観察していて、あることに気づいたんです。

彼らは決して、歯を食いしばってケーキを我慢しているわけではありません。私たちとは、そもそも「判断軸(選択の基準)」が根本的に違うのです。

多くの人は、「頑張ったご褒美=食べる快楽」という判断軸を持っています。 しかし彼らの判断軸は違います。「頑張ったご褒美=最高のコンディションを維持すること」なのです。

「ご褒美」の定義が変わると、行動は勝手に変わる

彼らにとって、トレーニング後の体に質の悪い油や糖分を入れることは、ご褒美どころか「せっかくの努力を台無しにする行為」に映ります。

だから、「食べちゃダメ」と我慢しているのではなく、「今は必要ない」と自然に選択から外しているだけなのです。

つまり解決策は、「食べたい欲求を抑え込むこと」ではありません。「自分の中にある『ご褒美』の定義(判断軸)を、彼らと同じものにスライドさせること」にあります。

「わかっていてもできない」本当の理由

ここまで読んで、「理屈はわかるけど、それができれば苦労しないよ」と思われたかもしれません。 その通りです。ここが一番の難関です。

なぜなら、この「頑張ったら食べる」というパターンは、大人になってからついた浅い癖ではないからです。おそらくあなたは、幼少期から何十年もかけて、この回路を作り上げてきました。

考えてみてください。あなたは仕事でも、勉強でも、この「報酬パターン」を原動力にして、多くの壁を乗り越えてきたのではないでしょうか?

脳にとって、この回路は「あなたを成功させてきた勝利の方程式」なのです。

成功パターンだからこそ、脳は守ろうとする

だからこそ、自分ひとりで「食べるのをやめよう」とすると、脳は猛烈に抵抗します。

「おい、その勝利の方程式を捨てるのか?それじゃあ明日から仕事も頑張れなくなるぞ!」

脳はあなたのパフォーマンスを守るために、無意識レベルでブレーキをかけます。 これが、意志の力では食欲に勝てない正体です。あなたが弱いからではなく、あなたの脳が優秀だからこそ、これまでの成功法則を簡単には手放せないのです。

必要なのは、あなたを支えてきた「頑張る力」はそのままに、食事の場面だけスイッチを切り替える技術です。 絡み合った糸を解くように、「仕事でのアクセル」と「食事の習慣」を丁寧に整理していく。1人では気づけない「無意識の領域」だからこそ、客観的な視点が必要になります。

最後に:脳の仕組みを味方につける

「痩せるためには、強い意志で食欲をねじ伏せなければならない」 そう思っている人は多いですが、実は逆です。

本当に上手くいっている人は、戦っていません。「自分を大切にする選択」が、自然と「ご褒美」になっているだけなのです。

もしあなたが今、運動と食事のジレンマで苦しんでいるなら。「もっと頑張らなきゃ」と自分を追い込む前に、一度立ち止まってみてください。

自分の「判断軸」は、自分ひとりでは見えません。 なぜなら、それはあなたが何十年もかけて作り上げてきた「無意識の前提」そのものだからです。

表面的には「食べ物」の問題に見えるけれど、実際には、あなたの仕事での頑張り方、人生での成功パターン、そして「自分をどう扱ってきたか」という、もっと根深い部分と繋がっています。

それを紐解いていくには、対話が必要です。 あなた自身も気づいていない「無意識の前提」を、質問を通して一緒に見つけていく。そして、あなたの仕事での頑張りは残したまま、食事の場面だけスイッチを切り替える技術を身につけていく。

それが、我慢や根性論に頼らない、一番リバウンドしない方法なのです。

もし、「自分を支えてきた成功パターン」が何なのか気になった方は、ぜひプロフィールや他のコラムも覗いてみてください。あなたの脳の謎を解くヒントがあるかもしれません。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

川瀬由理
専門家

川瀬由理(メンタルコーチ)

Aile coaching salon

脳科学や心理学に基づき、太る習慣や思考パターンを根本から改善。思考のOSを書き換えパフォーマンスで人生のベクトルを上げていく。

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

無意識や思考を整え、無理のないダイエットを指導する専門家

川瀬由理プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼