ヘルシー──その一言が、食欲を20〜40%増やしている?!

川瀬由理

川瀬由理

テーマ:ダイエット 健康 リバウンド 習慣 成功

健康のために気をつけているのに、なぜか体重が減らない・・・そんな経験はありませんか?
40代を過ぎると、20代の頃と同じ食事量でも確実に太る。これは「代謝の低下」だけが原因ではありません。実は、「健康的な食品ほど食べ過ぎてしまう」という脳の仕組みが深く関係しています。このコラムでは、なぜ健康的な選択が逆効果になるのか、その心理的メカニズムと対策を解説します。

「ヘルシー」の落とし穴──その安心感が食べすぎを招く

「ヘルシー」「低脂肪」「オーガニック」──こうした言葉を目にすると、どこか安心してしまいませんか?
健康によさそうなイメージを持つだけで、私たちの脳は"それほど危険ではない"と判断し、食べすぎを許してしまいます。実際、多くの人が「健康に良いものを選んでいるつもり」でカロリーを取りすぎているのです。
この現象の背景にあるのが、心理学でいう「健康ハロー効果(Health Halo Effect)」です。
「低脂肪」や「自然派」というネーミングがついていても、カロリーや糖分がゼロになるわけではありません。しかし脳は、これらのポジティブな言葉を見ると無意識に「カロリー量が少ない」「罪悪感なく食べられる」と判断します。
その結果、意識的なブレーキが外れます。
コーネル大学のブライアン・ワンシンク博士らが実施した研究では、「低脂肪」と表示された食品を選んだ人は、通常品を選んだ人に比べて食べる量が平均20〜40%多くなることが証明されました(Brian Wansink & Pierre Chandon, Journal of Marketing Research, 2006)。
これは、脳が「健康に良いもの」に対する心理的な許容量を広げてしまうために起こります。結果的に、摂取カロリーは通常品と変わらないか、場合によっては上回ってしまうのです。

「ヘルシー」が生み出す3つの錯覚

では、健康ハロー効果は具体的にどんな錯覚を生むのでしょうか。実際に起きている錯覚は、次の3つです。

  1. 一つの良い特徴(例:「砂糖不使用」)を見ただけで、他の要素も"良い"と感じる
  2. 「自然派」「低脂肪」などの言葉で、実際よりもカロリーを少なく見積もる
  3. "体に良いものを選んでいる"という満足感で、食べる量のコントロールが外れる

たとえば「砂糖不使用」と書かれたスムージーを選ぶと、他の糖分が入っていても見逃してしまう。脳は"良い印象の光輪"を見た瞬間、深く考えることをやめてしまうのです。

経営者が特に陥りやすい3つのパターン

40代・50代のビジネスエグゼクティブには、特有のリスクパターンがあります。

パターン1:決断疲れによる判断力低下

日中に大量の意思決定を下す経営者は、夕方以降「決断疲れ」の状態に陥ります。この状態では複雑な判断を避け、「健康的」という単純な手がかりに頼りやすくなります。
接待のコース料理後に「ヘルシーなデザート(例えば低脂肪など)」なら追加しても大丈夫、と自動的に判断してしまうのです。

パターン2:高価格帯商品への過信

高級スーパーで「オーガニック」「無添加」と表示された高価格帯の商品を選ぶことで、「良いものを買った」という満足感が先行し、成分表示を確認しません。
ビジネスの意思決定では数字を重視するのに、食品選びでは感覚的な判断に頼ってしまう──これが多くの経営者が抱える矛盾です。

パターン3:努力の正当化

「健康的な食品を選んだ」という行為を、日々の努力への「ご褒美」として捉えがちです。もしその食品が実は健康的でなかったら「努力が無駄になった」と感じる心理的不快感を避けるため、無意識にネーミングを都合良く解釈してしまいます。

無意識の罠から抜け出すための3つの習慣

1. 成分表示を「事実ベース」で確認する

ネーミングではなく、裏面の「栄養成分表示」を見る習慣をつけましょう。

  1. 炭水化物(糖質)が1本あたり15g以上なら要注意
  2. 野菜ジュースは「野菜の代わり」ではなく「ジュース」として捉える
  3. 飲むこと自体は悪くないが、脳の中での位置づけを変えることが重要
  4. 「低脂肪」でも実際のカロリー減少は20〜30%程度なのに、脳は「半分以下」と錯覚する

ネーミングはあくまで広告です。ビジネスの意思決定と同じく、食事も「事実ベース」で判断することが重要です。

2. 「ヘルシー=無制限」の認知を修正する

「健康的だから大丈夫」と思った瞬間、「これは健康ハロー効果かもしれない」と意識的に立ち止まってください。
経営者としての印象管理と同じく、食事も「意識的な選択」が必要です。会食が多くても体型を維持している経営者は、無意識にこの認知の罠を回避しています。

3. 報酬を「食べ物以外」に置き換える

健康的な行動をとった自分への報酬を、「より多くの食事」ではなく別の形で満たします。

  1. ストレッチを5分追加する
  2. 質の良い睡眠時間を15分増やす
  3. 週末に行きたかった場所への予定を立てる

非食的な代替報酬で、脳の満足度を賢く満たしましょう。

意志に頼らず、自然と選択が変わる方法

あなたのダイエットは、「意志」の力だけでは成功しません。

太る原因は努力不足ではなく、脳が持つ認知の仕組みにあります。だからこそ、「知っているのにできない」「気をつけているのに結果が出ない」という状態が生まれます。

健康ハロー効果は、その一例にすぎません。

私たちの食行動は、無意識の判断パターンによってコントロールされています。私はこれを「脳のOS(判断の基準)」と呼んでいます。
スマホのOSが古いと動作が遅くなるように、判断の基準が古いままだと、どれだけ努力しても体は変わりません。逆に、この脳のOSをアップデートできれば、意志の力で我慢しなくても、自然と正しい選択ができるようになります。

具体的には、自分の中の"判断のクセ"を理解すること。「ヘルシー」という言葉を見た瞬間に安心してしまう、その自動反応に気づくだけで、選択は変わり始めます。
「健康的な食品を選ぶと20〜40%食べ過ぎてしまう」──この事実を知っているだけで、あなたは次回から成分表示を確認するようになるでしょう。それは我慢ではなく、自然な行動の変化のはじまりです。

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川瀬由理
専門家

川瀬由理(メンタルコーチ)

Aile coaching salon

脳科学や心理学に基づき、太る習慣や思考パターンを根本から改善。思考のOSを書き換えパフォーマンスで人生のベクトルを上げていく。

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