「わかっているのに変われない」の心理学 ― ストレス社会と食行動(第2回)

川瀬由理

川瀬由理

テーマ:ダイエット 40代 ストレス リバウンド

「わかっているのに変われない」の心理学 ― ストレス社会と食行動(第2回)


前回の続き:知識だけでは変われない、その理由

前回は、「“食べたい”が止まらない」というテーマで、脳科学と心理学の観点から“食欲の錯覚”についてお話ししました。
脳の報酬系やドーパミンの仕組みを理解することで、「意志が弱いからではない」と気づかれた方も多かったと思います。

今回はその続きとして、「知っているのに変われない」心理の正体に迫ります。
ここには、現代人特有のストレス環境と、心のパターンが深く関わっています。

知識があっても変われない、その理由

前回、脳科学の視点から「食べたい」という衝動の正体をお伝えしました。

報酬系の仕組み、ドーパミンの働き、理性より感情が先に動くこと。
多くの方が「なるほど」と納得されたのではないでしょうか。

でも、ここで一つ、重要な疑問があります。
「この仕組みを知ったら、もう大丈夫なのか?」

残念ながら、答えはNOです。

もし知識だけで変われるなら、ダイエット本を読んだ人は全員成功しているはずです。
健康番組を見た人は、みんな理想の体型になっているはずです。

でも、現実は違います。

「頭では分かっている」
「やるべきことも分かっている」
「それなのに、できない」

この“分かっているのに”こそが、実は最も複雑で、最も根深い問題なのです。

現代社会が作り出す「二重の罠」

現代人が抱える食の問題には、かつてない特徴があります。

ストレスの慢性化

仕事のプレッシャー、人間関係、SNSでの比較、情報過多。
私たちは24時間365日、さまざまなストレスに晒され続けています。

一時的なストレスではなく、常にストレスがある状態。
これが、脳を疲弊させ、判断力を奪っていきます。

食べ物への超高速アクセス

コンビニ、デリバリー、自動販売機。
歩けば食べ物、スマホをタップすれば30分で到着。

ストレスを感じた瞬間に、すぐに「報酬」が手に入る環境。

この「高ストレス × 高アクセス」の組み合わせが、現代特有の食の乱れを生み出しています。

かつての人類は、こんな環境で生きたことがありませんでした。
私たちの脳は、まだこの環境に適応できていないのです。

「3分待つ」ができない日の正体

前回、「3分待つ」というテクニックをお伝えしました。
実際、このテクニックは多くの場面で有効です。

でも、こんな経験はありませんか?
「今日は、3分も待てなかった・・・」

その日は何があったでしょうか。
仕事で嫌なことがあった、誰かに否定された、孤独を感じた、疲れ切っていた。

つまり、3分待てないのは「意志が弱いから」ではなく、
心が何かを抱えているサインなのです。

表面的な食行動の奥に、目に見えない感情が隠れています。

自分では見えない「思考の水」

私たちは、自分の思考パターンの中にいる限り、そのパターンから抜け出せません。

魚が水の中で泳いでいても、「水」の存在に気づけないように。
・どんなときに食べたくなるのか
・そのとき、本当は何を感じているのか
・なぜそのパターンが生まれたのか

これらは、自分一人では見えにくい領域です。

なぜなら、私たちは無意識のうちに、自分にとって都合の良い解釈をしてしまうからです。

「疲れているから仕方ない」
「今日だけだから大丈夫」
「ストレス発散だから必要」

そう自分に言い聞かせながら、同じパターンを繰り返してしまう。

症状を抑えることと、原因を解消することは別物

「3分待つ」「見えないところに置く」といったテクニックは、確かに有効です。

でも、それは症状を一時的に抑える方法であって、
原因そのものを解消する方法ではありません。

まるで、水漏れしている家で、床を拭き続けているようなものです。

床は一時的にきれいになりますが、水漏れは止まっていません。
だから、また濡れます。また拭きます。また濡れます。

本当に必要なのは、水漏れの原因を見つけて、修復することです。

あなたの「食べたい」には、固有のストーリーがある

Aさんの食べ過ぎと、Bさんの食べ過ぎ。
同じ「食べ過ぎ」という行動でも、その背景はまったく異なります。

ある人は、幼少期に「食べる=愛情」と学習しているかもしれません。
ある人は、感情を抑圧する手段として食べることを選んでいるかもしれません。
ある人は、自己価値の低さを埋めるために食べているかもしれません。

万人に効く方法は、存在しません。

あなたのパターンは、あなた固有のものだからです。

だからこそ、一般的なダイエット法では変われない人がいるのです。

「わかった」は、まだスタートライン

行動を変えるプロセスは、こんなに単純ではありません。

知識を得る

自分のパターンに気づく

違う選択をする

それを続ける

この間には、目に見えない階段がいくつもあります。

そして、変化は直線的ではなく、螺旋階段のように進みます。
進んだと思ったら戻り、また進み、また少し戻る。

その過程で、多くの人が疲弊し、諦めてしまいます。
「やっぱり自分には無理だ」と。

でも、本当は無理なのではなく、一人で抱えるには重すぎるだけなのです。
表面的な対策では、一時的に抑えられても、また繰り返してしまう。

それは、あなたが弱いからではありません。
本当の原因が、まだ見えていないだけです。

私たちは、自分の思考パターンの中にいる限り、
そのパターンから抜け出すことができません。

魚が水の存在に気づけないように。

次回は、では、どうすればその“見えない水”に気づけるのか。
心と食の関係を整えるために必要なこと、についてお話しします。

あなたの“食べたい”の本当の理由は、何だと思いますか?

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川瀬由理
専門家

川瀬由理(メンタルコーチ)

Aile coaching salon

脳科学や心理学に基づき、太る習慣や思考パターンを根本から改善。思考のOSを書き換えパフォーマンスで人生のベクトルを上げていく。

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