「ケアレスミスが多い」という指摘で、学力は本当に伸びるのか
「前にも同じミスをしましたよ」
「なんでまた同じところで間違えるの?」
学習現場では、このような言葉が日常的に交わされています。
しかし、この問いかけ自体が問題の本質を少し見誤っている場合があります。
同じミスを繰り返す子どもは、
「覚えていない」のではありません。
多くの場合、「再現できていない」のです。
記憶には「保存」と「再生」があります
脳科学の観点から見ると、記憶は大きく二つの段階に分けて考えることができます。
一つは、情報を脳内に保持する記銘・保存。
もう一つは、必要な場面でその情報を取り出す想起です。
学校教育では、この二つが混同されがちです。
「覚えたかどうか」は確認されても、
「必要な場面で思い出せるか」については、
十分に検証されていないことが多くあります。
しかし、テストや実践の場面で求められるのは後者です。
つまり、学力とは記憶の量ではなく、再現性の高さによって測られるものだと言えます。
「分かったつもり」はなぜ生まれるのでしょうか
同じミスを繰り返す子どもほど、「分かっていたのに」と口にすることがあります。
これは決して嘘ではありません。
実際、説明を聞いた直後には理解している場合が多いのです。
問題は、その理解が
受動的な理解にとどまっていることにあります。
板書を見てうなずく。
解説を聞いて納得する。
ノートをきれいにまとめる。
これらの行為は、脳にとっては比較的エネルギー消費の少ない活動です。
前頭前野が深く関与する
「思い出す」「組み立てる」「選択する」といった処理は、ほとんど使われていません。
その結果、理解したという感覚は残りますが、自力で再現できる神経回路が形成されないままになってしまいます。
ミスは「注意力不足」ではありません
いわゆるケアレスミスと呼ばれる誤答の多くは、
注意力の問題として扱われがちです。
しかし実際には、
・手順が自動化されていない
・判断基準が曖昧である
・条件分岐が整理されていない
といった、認知処理の未成熟が原因であることが少なくありません。
この状態では、毎回その場で考え直す必要が生じます。
その分、脳への負荷は高くなり、結果としてミスは繰り返されます。
つまり同じミスとは、「不注意の結果」ではなく、再現可能な思考ルートが脳内に構築されていないことを示すサインなのです。
再現性は「思い出す訓練」でしか高まりません
記憶の再現性を高めるために必要なのは、単なる反復ではありません。
重要なのは、
「何も見ずに、どこまでできるか」を意図的に経験させることです。
・解説を閉じて説明させる
・途中式を言葉で再現させる
・間違えた理由を言語化させる
これらは、脳にとって負荷の高い活動です。
しかし、この負荷こそが神経回路を太くし、再現性を高めていきます。
同じミスを繰り返す学習設計
正確に言えば、同じミスを繰り返す学習設計が存在しているだけです。
子どもは、できないから間違えているのではありません。
再現できるように設計されていない学び方を、続けさせられているに過ぎないのです。
指導とは、結果を叱正することではありません。
再現可能な思考ルートを、一緒に整えていくことです。
学力とは、記憶の量でも、注意力の強さでもありません。
必要なときに、必要な考え方を呼び出せる力です。
同じミスを繰り返す子どもを前にしたとき、私たちは「なぜ覚えられないのか」ではなく、「なぜ再現できないのか」を分析する必要があります。



