“できない”の裏側にある声を、聴ける大人でありたい― BesQ・代表仁田楓翔のコラム ―
「なぜできないのか？」という問いの裏には
多くの場合、「これくらいはできて当然だ」という大人の無意識の前提があります。
その“当然”とは、大人自身の経験や価値観にもとづいた“定規”であることが少なくありません。
発達心理学では、子どもの行動には必ず内的要因（発達段階、認知の処理能力、情緒の状態など）と、外的要因（環境、指示の出し方、人間関係など）が複雑に関係しているとされています。
つまり、「できない」という現象は能力の欠如そのものではなく、何らかの“阻害要因”が存在しているサインである可能性が高いのです。
たとえば、片付けができない子どもに対して
「なぜできないの？」と問い詰めるよりも
「何がわかりにくいのかな？」
「どうしたらやりやすくなるかな？」と、原因や工夫の方向に目を向ける姿勢が求められます。
特に、実行機能が未発達な場合には、行動の計画、切り替え、整理といった力がまだ十分に育っていないのです。
これはトレーニングや経験を通して、徐々に育っていくものです。
にもかかわらず、大人の定規で子どもを急かしてしまうと、それは自己肯定感の低下につながり、むしろ学びを遠ざけてしまうこともあります。
教育現場や家庭において、子どもが自ら動き出す瞬間は「理解されている」と感じたときに訪れることがよくあります。
それはつまり「大人の定規ではなく、自分の定規で見てもらえている」という実感が、子どもに安心感と自発性をもたらすのです。
“わかってくれている”という感覚は、子どもの内側にある力を引き出す強力な原動力になります。
反対に、大人の基準で判断された叱責は、表面的な従順を生むことはあっても、内発的な変化を促すことは難しいでしょう。
教育とは、子どもに「正しさ」を教え込むことだけではなく、その子自身のペースと仕組みを見つけ、育てていくことです。
子どもが動かないときこそ、大人が自分の定規をそっと手放すことそれが、本当の意味での「学びの始まり」なのかもしれません。
