「無言の帰宅」──知らない言葉が生む二次被害と、教育が果たす役割

SNSで起きた“誤解の連鎖”

先日、行方不明の夫を捜していた女性が「夫が見つかりましたが、残念ながら“無言の帰宅”となりました」と投稿しました。
この言葉に対し、SNS上では「良かったですね！」「これだけ心配かけて無言とか頭大丈夫？」「まず謝罪だろうが！」といったコメントが相次ぎました。

しかし、“無言の帰宅”とは報道や警察発表で使われる慣用表現で、行方不明者が亡くなった状態で発見されたことを意味します。

無知ゆえに「口をきかず帰宅した」と誤解した人々のコメントが、深い悲しみの中にいる家族をさらに傷つけたのです。

言葉を知らない怖さ

「無言の帰宅」という言い回しは、直接「死亡」と伝えるよりも柔らかく、遺族への配慮を込めて選ばれたものです。

けれども意味を知らない人が多いままSNS上で拡散され、善意や軽口が二次加害となりました。

知識不足そのものは恥ではありません。

しかし、調べずに発言することが他者を傷つける危険を孕んでいるという事実は、私たちが強く意識すべき点です。

早すぎるリアクションの罠

SNSは「いいね」「コメント」を即座に返す文化があります。

ですが事件や事故に関する投稿は情報が不完全であることが多く、早まった反応が雪だるま式に広がります。

「良かったですね」という一見前向きな言葉ですら、亡くなった家族を前にした人にとっては凶器となり得ます。

調べる・待つ・考える――この基本を怠った代償は想像以上に大きいのです。

教育者として伝えたいこと

私は学習塾BesQを運営する教育者として、子どもたちに「わからないことはまず調べよう」と常に伝えています。

学力を伸ばすうえで大切なのは、知識量よりも調べて確かめ、相手を思いやる習慣です。

意味を知らずに発した一言が誰かを傷つける
これは学校や職場などあらゆる場面に通じる危険です。

教育現場で育むべきは、テストの点数よりも言葉を扱う責任感です。

子どもたちが大人になる頃には、今以上に言葉が瞬時に世界へ拡散する時代が訪れます。

だからこそ大人が
「調べてから話す」「分からない時は黙る」
という姿勢を示し続けることが、未来の社会を守る教育そのものだと考えます。

「無言の帰宅」が示したのは、言葉を知らないことの怖さと、調べる習慣の大切さです。

教育者として私は、この事件を“言葉のリスク教育”の教材として捉え、子どもたちに「知ろうとする勇気」「沈黙する勇気」を伝え続けたいと思います。

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著者：仁田楓翔（にった ふうか）
BesQ教育グループ代表／朝日新聞マイベストプロ登録専門家
脳科学と心理学をベースに、子どもの学びと自己肯定感を育てる教育法「のんきの極意」を提唱。