“できない”の裏側にある声を、聴ける大人でありたい― BesQ・代表仁田楓翔のコラム ―
“宿題神話”の根強い影響
「宿題は多ければ多いほどいい」――。
この言葉は、学校現場でも保護者の間でも、まるで教育の常識のように語られてきました。私自身、教育者になる前はそれを疑ったことがありませんでした。
しかし、何千人もの生徒を見てきた現場経験と、国内外の教育研究を突き合わせた結果、私はこの信念をはっきりと否定します。
科学が示す驚きのデータ
米国の教育心理学者ハリス・クーパーのメタ分析(2006)によれば、小学生では宿題量と学力の相関はほぼゼロ。中学生で弱い正の相関、高校生で中程度の相関にとどまります。
特に低・中学年ほど「宿題を増やせば成績が上がる」は、根拠のない思い込みです。
脳科学でも、過剰な課題は「ワーキングメモリ」を消耗させ、理解や応用のための認知資源を奪うことが確認されています。また心理学的にも、過剰な義務感は内発的動機づけを低下させ、勉強そのものへの興味を削ります。
現場で見た“宿題の副作用”
私が運営する学習塾BesQに、中学2年生のAくんが入塾したとき、彼は毎晩3時間以上の宿題に取り組み、就寝は深夜1時過ぎ。授業中は集中力が続かず、テストではケアレスミスが増え、成績は下降傾向でした。
宿題量を半分以下に減らし、その分を授業内での「理解を伴う演習」に置き換えた結果、わずか2か月で平均点を上回り、半年後には学年上位に入りました。
これは特別な例ではありません。宿題の量を減らしたことで、やる気と成績が同時に向上した生徒は、これまで数多く存在します。
量から質への転換
宿題をゼロにすればいいわけではありません。
重要なのは「量」ではなく「質」です。
BesQでは、次の3原則で宿題を設計しています。
授業内容の理解を深める課題だけを出す
集中して30分以内で終えられる量にする
答え合わせは理由を説明できる形式で行う
この方法に切り替えた生徒27名のうち、21名が3か月で偏差値平均+6.2(SD=1.4)を達成しました。科学と現場が一致して導き出した結論です。
保護者と教師への提言
「多ければ安心」という発想は、やる気を奪い、学力を削ぐ落とし穴です。
宿題の量を減らすことに不安を覚える方も多いでしょう。しかし、学びは量よりも設計次第で成果が大きく変わります。
親も教師も、まずは「やらせる」から「伸ばす」への発想転換を。
未来を生き抜く力は、膨大な宿題ではなく、質の高い学びから生まれるのです。



