“できない”の裏側にある声を、聴ける大人でありたい― BesQ・代表仁田楓翔のコラム ―
「勉強=覚えること」と考えている方は多いかもしれません。
もちろん、知識のインプット(入力)は大切です。
しかし、実は「思い出すこと」こそが、記憶にとって最も重要な瞬間だということをご存知でしょうか。
脳科学の視点から見たとき、人間の脳は情報を“取り出すとき(アウトプット)”に、記憶を強化しようと活性化することが分かっています。
これは、神経細胞(ニューロン)の活動パターンが「再活性化」され、ネットワークとして再構築されることで、記憶が強固になるというメカニズムです(Roediger & Karpicke, 2006)
インプットばかりの勉強法では、忘れて当然
多くの人が「読む」「聞く」「見る」といった受け身のインプット学習に時間を割きがちです。
しかしこれは、「分かったつもり」に陥る大きな落とし穴でもあります。
心理学者ヘルマン・エビングハウスの有名な「忘却曲線」によると、人は学習後24時間以内に約7割の情報を忘れてしまうと言われます。
つまり、「覚えた直後に何をするか」が、記憶の命運を分けるのです。
アウトプットで記憶が定着する科学的理由
米国の心理学研究者ローディガーとカーピッケが行った実験では、「文章を読むだけのグループ」と「読んだ内容を思い出す練習(テスト)をしたグループ」とで、1週間後の記憶保持率に大きな差が見られました。
後者、つまり「アウトプットを繰り返したグループ」の方が、圧倒的に記憶が定着していたのです
(Roediger & Karpicke, 2006, Testing Effect)。
この現象は「テスト効果(Testing Effect)」とも呼ばれ、人間の脳は“思い出すことで覚える”という性質を持っていることを裏付けています。
学習効率を高める黄金比「インプット3:アウトプット7」
では、実際の学習でどのように取り入れればよいのでしょうか?
私が推奨しているのは、学習時間のうち「インプット3:アウトプット7」のバランスで時間を使うという方法です。
たとえば、30分勉強するなら、
最初の10分で教科書や資料を読む(インプット)
残りの20分は、内容を思い出す/自分で説明する/問題を解く/人に教える(アウトプット)
このように、「頭に入れる」よりも「取り出す」ことに重点を置くことで、記憶は長く、深く定着していきます。
子どもから大人まで、すぐに始められる習慣
アウトプット型の学習は、特別な道具を必要としません。
ノートを閉じて思い出す、口に出して説明する、誰かに教える、クイズ形式にする
どれも今すぐ始められるシンプルな方法です。
「たくさん勉強しているのに、覚えられない…」
そう感じている方は、アウトプットが不足しているのかもしれません。
脳は、思い出すときにこそ働く。
「インプット3:アウトプット7」の学び方は、単なる勉強法のテクニックではなく、記憶のしくみに即した“脳にやさしい学習法”です。
子どもたちの学びに、そして私たち大人の学び直しにも、今こそ取り入れてみてはいかがでしょうか。



