精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第四章-2

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か


第四章 欲望とa 『2_自分を生きる』


金と権力の代償


人に何故欲望が必要なのだろうか。動物は本能があるために、欲求があれば生存するのに事足りて、他に何の野心もない。陸上のすべての動物を支配し、その王となる権力欲も野望もない。唯種が存続すればいいだけで、本能だけあればいい。しかし、人間は種の保存よりも富と権力と領土への支配欲が優先し、金と権力しか見えなくなった人類は、武力と利益だけを追求する欲の亡者になってしまった。

種の保存を目指す生物達と袂を分かつ人類は、独り欲と自己保存に走り、種の保存を蔑ろにしたつけが、今温暖化となって回って来た。このツケは返せないほど大きくなり、その損害は、人類全体で負い、代償を支払うことになる。

その代償とは、種の滅亡である。
こんな地球に誰がした。Φ(ファルス)のない男達が、すべてを台無しにした。何が人にとって大事で意義あるものか、そしてまた何の為の人生なのか、独り独りが問いにかけて、答を出さなければならなかったのに、生活の豊かさと、快適さと富にばかり求め続けた人間の欲は、遂に「享楽」という真の欲望に辿り着くことができなかった。ラカンはその究極の真の欲望としてそれをaにした。


aについて語る

aについて語る。aと記号化される前の対象は何であったのか。それは母である。母とは何か。先ず子を産んだ人。産む性を実践し、出産を成し遂げ、その後、その子を養育し続け、自律し、巣立ちまで援助し、その役目を全うした人の事を言う。単に世話と言っても、事はそう簡単ではない。世話する母の言う通りに動く訳でも、都合よく手を掛けられる訳でもなく、決して母の思い通りに子を世話できない。

母と子は、自由と世話を巡って争いが起きる。家庭は母と子の戦場と化す。日々母の叫び声が、何度も炸裂する。それに呼応するように子供の泣き声が轟き渡る。そんな日々が果てるともなく綿々と続く。母はこうして疲弊し、育児ノイローゼとなり、遂には養育放棄が虐待・暴力に及び、家庭崩壊に至る。

その母を「a」には置き換えられない。母と養育環境は、本来楽しく、喜び合い、暖かい優しい心で、ほのぼのとしてしあわせ感に包まれた空間の筈である。その空間に居る人、物、事をラカンはaとした。今はそうではないが、そのaを目指して生きていく自我の求めるそれを、ラカンは享楽と言った。


配偶者選択の根拠

独り立ちし、母と訣別したが、母との楽しく、喜びと優しさに満ち溢れた時間を憶い出しながら、それを再現できる人を求めて、配偶者選択するのである。

しかし、子供の云い成りに奴隷のように世話した母など居る訳もなく、ほとんどの人が母に不満や不足を抱いている。欲求不満のまま、配偶者選択をする為に、正反対の母像の人か、もしくは同族の母タイプを選ぶ。女子の選択は、母タイプか父に似た人か、いずれかになる。
同タイプの選び方は同族結婚という。それは長続きすることが多い。反対の異族結婚は、五分五分に分かれる。


幸福とは、自分の生き方で自分を生きること


いずれにしても享楽の対象aという理想のパートナーを見つけない事には、人生は始まらないのである。しかし、人の幸福はそれだけではない。家庭を持たなくても、自分のやりたい事、即ち仕事や趣味などをエンジョイしながら、楽しく生きることも出来る。これも享楽の人生といえる。いずれにしても、私自身が楽しんで生きることができれば、それが生まれて来た意味であり、生き甲斐である。

何か大きい志を持ってそれを成し遂げる人生もあり、何もしなかったが、何気ない平穏な人生を過ごすのもいい。人は各々自分の生き方で自分を生きられた人が、一等幸福ということである。


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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

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