精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第三章-1

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か


第三章 精神世界の構築 『1_去勢』


寄る辺無き存在


現実界に放り出されるように、こぼれ落ちたようにして登場した我々は、世界の様相を何も知らず、唯知覚のみで世界と接するが、それとて何を知覚しているのか、そしてその知覚が5つあることすら知らず、オドオドしながら、泣くしか出来ない寄る辺無き存在として一年来以上過ごさねばならない無力で弱い、自分で自分を守れないひ弱な存在でしかない。

そんな危うい存在のまま自律し自立できるまで18年を要する。これほど自立に時間のかかる生物は他に居ない。親への依存度が、養育者への依存度が高すぎる生物は人間だけだ。

知覚が統合されて独りの人間であるという自覚を持つに至ることは、約束されてないし、本能でそこに至る訳でもない人間は、生涯自立できないまま、他者に依存し続けて生きる人も少なくない。人が人となり、社会に貢献して生きていける人は更に少ない。


精神の誕生:去勢(歴史的真理)

自分さえよければいいという利己主義を超えて、自利利他の心で生きていける人は何人居るだろうか。人間が人間になるとは、心を持つだけでなく、個と全体を思考する精神を持たなければ、社会という全体は見えて来ない。

では、精神とは何か。
心は欲求と感性と自己保身だけを目指す、自己愛と自己保存欲動のために働く。そこに他者は視野に入らない。私利私欲のために働くのが自我で、その総体を心といった。未成年まではそれでいい。しかし、社会人となった成人以降は、心から精神へと変容しなければならない。

精神はどのようにして誕生するのか。
フロイトに依れば「去勢」という歴史的真理において遂行される。子は母の世界の養育の場から切り離されて、行動と想像の世界から、言語の世界へと参入する、その移行に不可欠なものが父による「去勢」なのである。判り易く言えば、母の温もりから、父の掟による法の世界に隷属し、温もりから法による厳しい冷徹な世界への移行である。


実感から文字と意味へ


知覚から想像界を経て、文字・記号・言語の象徴的世界への参入は、現象から意味へのシフトの大転換がここで行われる。ここで生じる劇的な変化とは、もう生の現実に触れることができずに、その実感の代りに文字と意味を受け取るのである。

人は象徴界に足を踏み入れたことで、現実の偽物である文字を手にし、生の現実を求めて旅をするのであるが、それは永遠に手に入らない。その代り、偽物から得られる一瞬の満足と喜びを手にすることが出来るが、それはほんの束の間の幻で、すぐに違うと気付く。そして次の欲望をつくり出し、新たな目標に向かって突き進む。しかし、それも種が尽きて、いつしか無気力に陥る。

人類は2次元世界に没頭し、引き込まれていく事で、想像界に閉じこめられ、3Dの現実界に出られなくなり、現実を見失い、生きることがどういうことなのか実感を失って、生きる屍と化す。
次第に人間は肉体を喪失し、2次元で生きることになる。最早そこから脱出できないほど、地球上を2Dが覆い尽くしてしまってる。


人間のしあわせとは


自然と共に、人と共に生きていく原始の姿と心を取り戻さねば、人類に未来はない。それには、もう一度自分自身に問いかけることである。
「人間とは何か」「生きるとは」「家族とは」「愛とは」「しあわせとは」「共生とは」「社会とは」自分のまわりの物や事、人に向き合い、対話して、自分を知ることから始める。それが出来るなら、人はもう一度「心」を取り戻し、人々と共に生きていけるだろう。

人間のしあわせとは何か。平和に健康で、安心できる家族と生活があるなら、それだけで市井の人は充分しあわせである。それ以上に何を望むことがあろう。


しかし、既に安全な生活と環境は温暖化と戦争で脅かされている。今、日本はたまたま安全で安心できる国ではあるが、いつその幸運が打ち破られてしまうか保証の限りではない。今はただ奇跡のような平和が続くよう神に祈るしかない。

2-6 『祈り』 ⇦ ⇨ 3-2『Φとは』

⇨ セラピストの格言はこちら
⇨ 精神分析家の徒然草はこちら

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

生きる意味への気づきをもたらす精神分析家

大澤秀行プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼