精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第二章-4

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か


第二章 心の誕生 『4_心を超えて』


私だけの個「個性」

心は言葉を憶える毎に拡大していき、認識能力を高めて世界を広げていく。それに伴い、怒り、喜び、悲しみの感情を抱く事を学び、人と人とがつくり出す情況を体験し、心は下図のようなトポロジーを形成する。


それに文字や記号が加わり、知識として統合され、心と言葉と感情の複合体へと変容していく。それが次の図である。


こうして知・情・意による三位一体が形成される。
ここから、私だけの個が形づくられていく。初め、心は単なる世界の認識装置でしかないが、そこからその認識した世界に意味と価値を附与して世界を構成していく途上に「個」が形づくられた、それが「個性」となり、唯一無二の私が出来上がる。この時、誰にも似ていない世界でただ一人の私が誕生したのだ。それまでは人間という種の一個体でしかない。人間になるとはこの「個」をつくることである。


人間になるとは


人間になるとは、人間の心をつくり、持つことである。それには、人と交流し、情を交わし、共に助け合い、共に成長して、世のため人のために働く人になることである。
こう言ってしまうと、道徳で説くような善人の標準的人間像のように見えるが、実はそうではなく、自己をつくるプロセスと道徳で説く人間像が一致しているだけのことで、私は道徳論を言っている訳ではない。人間になるとはを語っているのである。

人間が知・情・意を形成したのは、人は独りでは生きていけない存在だからである。社会という集団組織をつくり、経済と文化を発展させて、生活を確立し、今日まで生き延びて来た。


エロスとタナトスの戦い


しかし、エロス(生きようとする意志)とタナトス(破壊衝動)の、フロイトの説く生の欲動と死の欲動が常に鬩ぎ合い平和と戦争を繰り返し、今も尚それは終わらない。
もし、この世に神が関わっているとしたら、人類の行く末を眺めてこう言うだろう。「お前達は一体幸福になりたいのか、それとも破滅したいのか」と。その神の問いかけに答を見出せないまま、殺し合いは続いている。

個の心の葛藤から、国対国のレベルにまで、すべてこのエロスとタナトスの戦いなのである。
事、現在に至っては、人間の心は「性善説」によっているとは言えなくなった。むしろ「性悪説」が優勢になっている。いずれにしても楽観論は放棄された。終末説が見え始めた。

先ず、地球が壊れた。もう戻れないところに来てしまったのは、今年の異常な暑さをみれば明らかである。人間の個はなくなり、人間という種が問題になっているのが現在である。


心を超えるとは何か


こんな時代に我々独り独りはどう生きていけばいいのか、問いかけても答は無い。あるのは静かに日々を送ることである。
人としての尊厳とは何かを問い、心を超えた何かに至る生き方を模索するしか、これからの時間は使いようがない。

心を超えるとは何か。
それは地球に人類が誕生した意味である。
私がこうして生きているという意味である。
もう一刻の猶予もない。


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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

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