精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第二章-2

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か


第二章 心の誕生 『2_意味を生きる人間』


心的エネルギー 目標とは


言葉と共に誕生した心は、何処に向かっていくのか。
向かうという概念化は、向かう主体と、その先にある目標が設定されて構造化される、何ものかを想定しなければ成立しない。主体と対象の空間性と、目標の意味と、そこへ推進していく何ものかのエネルギー論が必要とされる。

目標とは主体における意味ある対象ということになる。そもそも意味とは何か。その答えは、ラカンのシニフィアンの理論によらなければならない。


養育者から言語と情動を学習

自我を主体が持つことにより、対象が生まれる。その二者関係を体験により、次第に言語と情動を学習していく。その学習相手が養育者である。
しかも、一定の、そして専従の世話をする人を養育者という。それ故、必ずしも産んだ母が養育者でなければならない必要はない。

唯、授乳という時期に際しては、ミルクよりも乳という観点において、乳の出る人、即ち母乳が望ましいことは言える。しかし、昭和やそれ以前の時代には、乳母という授乳専属の子育て女性がいた。それが出来るなら、それも良しである。


欲求と言語の有効性

いずれにしても、授乳やその他の世話行動を通して、三年間ぐらいは同一人物による養育は必要である。その二者関係を通して、言葉と行動、自らの欲求と言語の有効性などを学ぶ。
養育者の性格、感情、思考、感性、価値観、人間性など、人格のすべてをその三年間に子供は修得するのである。


それ故、主体と自我の対象は、養育者そのものである。この二者関係が成立するためには、子供の自我や行動がすべてその子孫に届けられ、その自我の対象である養育者に受け止め、受け容れられなければ、自我も心も主体も消えてしまう。


攻撃性と破壊の自我形成の源

対象に届けられるものは、欲求と言葉と庇護である。安心・安全と満足がもたらされて、自我も心も生きていられるのである。それが恙無くもたらされるには、養育者が今自我が届けたメッセージをすべて受け取り、理解して、備給した時だけである。それを外してしまえば、不満と怒りが生じる。

この怒りこそ攻撃性と破壊の自我を形成してしまう。人類の争いの起源は、正にここにあったのだ。歴史上人類史から戦争の無い年代が存在しないのは、この人間の心の形成の構造上の問題であったが為である。

子供の欲求のメッセージを理解する知性も言語力も持ち合わせない大人達が、子供の心を駄目にした。悪気は無いが、大人達は大人の価値と論理と道徳で子供を教育の名の下に支配した。子供にとって必要な事は、教育ではなく世話なのだ。この単純な構造に、大人は無知だった。そして今尚無知である。


人類がもし滅び去るとしたら、この無知が原因である。数多の心理学者達は、口を揃えて0才から2才までの母子関係を、様々な理論でその重要性と大切さを説いている。にも拘らず、それらは「母性神話論」の一言で排斥されてしまう。

確かにそう言えなくもない、母性を過大視や重視し過ぎている点も無きにしもあらずだが、概ね的を射ていることも確かだ。それは事実として明らかに事象化しているからだ。
だが、それが総じてではないことも又事実である。その相互絶対性が成立しない不均衡はラカン理論によって埋まった。


意味を生きる人間


人間の心の成長は養育史による母子関係の密度が関与していることは事実だが、それ以上に人間にとって最も重要で絶対的に決定的なものは、言語である。

言語は意味をつくり、人生を構造化意味付ける。それによって人は生きていく。生物学的に唯生き延びているのが人間ではなく、一つの完結した人生として意味あるものに形づくろうとして、自らを世界に投企していく実存的存在なのである。
人は生きている意味なしに、生きていけないのである。


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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

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