精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第二章-1

大澤秀行

大澤秀行

テーマ:人間とは何か


第二章 心の誕生 『1_心はどこに』


心の原子


私の心は、いつどの様にして生まれたのか。
宇宙が誕生したのはビッグ・バンであるが、人間の心はエネルギーが凝縮した高エネルギー塊の何かが、爆発して出来たものと趣きが違う。もっと静かに、一つ一つのクォークのような微細な物質が少しずつ固まって形成されたようなものが、心ではないか。その一つ一つとは言葉である。

言葉と言語・記号が一つ一つ凝縮しながら、分子をつくり、それが細胞となって臓器をつくり、骨をつくり、筋肉をつくり、体全体を構成していき、遂に人間を形づくったように、言語の一つ一つが心を細胞から臓器へと文章によって構成し、言語体系をつくり、それが心という血液と神経のネットワークにより、精神を形づくったのである。
心の原子は文字ということになる。


反生命活動

肉体は光・空気・食物によって維持され、成長していく。しかし肉体は成長し続ける訳ではなく、ある時を境に衰退していく。細胞は生滅を繰り返しながら死と再生を維持し、生命全体を支えている。

その機能に衰えはない筈なのに、いつの時からか、それが低下し、衰弱し、死に至る。人は老いて死ぬのではなく、死と再生を繰り返せなくなるから、時が止まるのだ。

知性のない体は、自らの生命活動にストップをかけることは出来ない。その筈なのに、いつからか、人は自らの意志によって体をコントロールできるようになってしまった。

息を止められたり、断食したり、不眠不休したり、自らの体を傷つけられ、生きようとする生命活動の摂理に背いて、それに反した行動を取ってしまうことが出来る。
にわか、反生命活動である。生き延びるのではなく、生命活動を止めてしまうことをする。


人間は生命を纏った辞書


これは、生命をコントロールする指令塔が体の中に居るということを意味する。そのコントロールをする信号は、言語であり、言葉である。この時、心が誕生したのだ。

泣くから言葉を発するようになる1歳から1歳半、2歳になった頃、心の萌芽が姿を現す。この時から、体と心は二つに分かれる。体は細胞が掌り、心は言葉が支配し、体に書き込んだり、対話することになる。

言葉が発せられなくても、人間にはもう一つの言葉、即ち無意識が発する言葉があり、これが体のほとんどに語りかけ、影響を与えている。意識して語る言葉は氷山の一角で、ほとんどは無意識のフレーズが常にリフレインして、耐えることなく体に語りかけ続けられてる。

人は一体何を体に語りかけているのだろうか。語りかけている訳ではなく、無意識が語りかけている何者か、その対話をきいているのが肉体である。寝ている時でさえ、夢の語らいをきき、体に刻み込んでいる。故に体は文字が無数に刻まれた辞書のようなものである。そうラカンは語っている。
人間は生命を纏った辞書なのである。


心の声をきく

心は言葉と共に誕生し、日々の会話やメディアからの情報や本から視覚を通して摂り入れ、聴覚を通しても言語は無制限に入ってくる。脳のハードディスクに記憶しなくても、外付HDに保存し、いつでもそこからインターネットを通して手に入れられる。ほぼ無限大の情報と言語を持っていることになる。

私の、という限定された情報と脳は存在しなくなる。誰もが神のような万能感に包まれて、幻想を生きる現代人には、既に私というパーソナルな個としての「私」は居ない。


人間の心は何処にあるのか。私という個はどこに在るのか。言い換えれば、私しか知らない事はあるのか。そしてそれは何なのか。SNSやインスタに公表された「私」は個人ではなく、それを見た人と共有された「一人の人間」でしかない。

「イイネ」とスタンプを押された私は、唯の情報と化してしまう。私という生身の個人は、どうしたら得られるのか。それは、心の言葉でじっと自らに問いかけることである。「私は何者か」と。
深く沈思黙考し、心の声をきくことである。


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大澤秀行
専門家

大澤秀行(精神分析家)

合同会社LAFAERO1(ラファエロワン)

精神分析家として34年の臨床実績があり、現在もメールや電話も合わせると、一日平均10名の精神分析によるセラピーを行っている。

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