精神分析は精神科学に基づき心の病を癒し人間の謎を解き明かす第一章-4
第一章 生命の始まり 『6_精神分析とは』
分裂した自我構造「いい自分」と「悪い自分」
自分探しとか、自分と向き合うなどと、人は平然と口にするが、その構造と意味を判って「自分」という言葉を使っているのだろうか。
そもそも見られる対象自我が、それを見て意味付ける自我と分裂しつつ、同時に同一の一つの自我でなければ、それを語った自分は「私」であると言えない。
人はそれでなくとも、分裂した「いい自分」と「悪い自分」の二分法の中で葛藤している。そもそもが、分裂した自我構造を持ちながら、人はどんな自分と向き合い、まだ見ぬ自分をどの様な術を持って探そうとしているのか。
自分探し

四国八十八カ所のお遍路さん達が異口同音にお遍路の目的や動機を訊ねられると「自分探し」という。自分をみつめ直すとは何か。改めて「自分とは何者か、何をしたいのか」と問い直すことで、新たな自分を発見したいと。
未だに自分に気付かれない、隠され埋もれた自分が存在するという確証はどこにあるのか。
すべては幻想である。何も無いのに恰も在るかのように思い込むことで、人は可能性という生きる希望を手にしたいのである。
唯唯 好き
能力とは、努力と意志によって形成される
潜在能力などとは、全くの幻想である。能力は努力と意志によって形成されるもので、備わっているものではない。ということは、誰でも努力すれば能力を発揮し、才能を持てるということである。天賦の才はない。
モーツァルトもアインシュタインも唯音楽と科学が好きで、それだけと向き合い、ミューズの神と科学の神が音と文字をもらっただけである。
そんなことがどうして平然と確信めいて言えるのかと言えば、私は月に2時間30分の講座を八本以上こなしている。事前の調べや講座のプロットもなく、その場で立った時にテーマを決め、しゃべり始める。
途中で止まったり、口ごもることは一切なく、加えて二度同じ話をしたことがない。これはそれが出来ない事情がある。それは受講生がほとんど同じであるから、同じ話は出来ないだけのことで。
それにしても三十年有余このスタイルでしゃべり続けている。テープを起こすと、B5版に30数頁になる。それを月8回×30年=2,880回。時間にしてみれば7,200時間以上になる。多いときは月に11講座していた。
とまれ、講座であるテーマについて語り続けていると、次から次に言葉が勝手に出てくるので、しゃべっている私の講義を聴いているもう一人の私が、聴講生の一人になって聴いているのである不思議な構造である。正に文字が降ってくるのである。
しゃべっている私は、その文字を読んでいるだけなので、疲れることも言葉に詰まることも、考えることもせず、滔滔としゃべるだけなのである。しまいには聞き惚れて、感心してしまい、レクチャーが止まることがある。ふと我に返り、再度分裂して私は聴講生に戻る。いわば自己陶酔の世界である。
道楽者
なので、天才は居ない。居るのは、唯それが好きでやっている道楽者である。モーツァルトもアインシュタインも音楽と宇宙物理学が好きでやっていただけのことなのだ。
唯、一般の人はそれに強い関心を抱かず、好きでないから続けないだけのこと。
私は分析が、殊フロイト、ラカンが好きで、その理論にいつも触れていたいという想いが、他者より強いだけである。だから三十年有余続けてこられたのだ。唯そのことが好きかどうかだけである。
もう一人の知らない「私」の存在

私以外の私など何処にも居ない。フロイトは無意識を発見した。私の中にもう一人の私が知らない「私」が存在していることを証明した。仮説ではなく、物理学的に、構造論的に、エネルギー論的に、経済論的観点から、そしてラカンは言語学的に無意識が如何ものであるか弁証法的に解明した。
私が知らないもう一人の「私」は確かに存在していることが明白になった。しかし、フロイトは無意識を「ソレ」としかいいようのないものとし、ラカンは「無意識は言語活動のように構造化されている」と言った。
精神分析とは、無意識を読み解く技法
要は、無意識は抑圧された欲望のフレーズである。したくても出来なかった、求めても得られなかった欲望のフレーズの意識の外に登録されて生き続けていた心の叫びが、無意識なのである。
その声を聞いてあげることが、自分探しであり、自分と向き合うことなのだ。その声は、即ち無意識は総ての人の裡に在る。欲望として生き延びた無意識は、悲しいことに、それを言葉に出来ない。
抑圧して埋めた時に、フレーズは歪み、原型をとどめない別なフレーズに変換されてしまっているために特別な解読法が必要となってしまった。
それを読み解く技法が精神分析である。
1-5 『平和と愛を求める自我』 ⇦ ⇨ 2-1『心はどこに』
➩ セラピストの格言
➩ 精神分析家の徒然草




